研究課題/領域番号 |
21K07052
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉田 征彦 (杉田征彦) 京都大学, 医生物学研究所, 特定助教 (00734469)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フィロウイルス / エボラウイルス / マールブルグウイルス / ヌクレオカプシド / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
フィロウイルスは、非分節マイナス一本鎖RNAをゲノムとして持つ。フィラメント状のウイルス粒子内部には、感染細胞内でゲノムRNAの転写・複製反応を担う分子装置であるヌクレオカプシドが取り込まれている。ヌクレオカプシドは、核タンパク質 (NP)とウイルスRNAが結合して形成される螺旋複合体 (NP-RNA複合体)に、VP24、VP30、VP35、RNA依存性RNAポリメラーゼ (L)が結合することで形成される。NP-RNA複合体は転写・複製反応において足場として働くほか、ウイルス粒子の長さを規定するコア構造であることが明らかになってきた。つまり、NP-RNA複合体はウイルスの増殖および粒子形成において中心的な役割を果たす分子であり、抗ウイルス薬の有望な標的である。しかし、フィロウイルスのNP-RNA複合体構造および、転写・複製反応の構造基盤には不明点が多い。本研究では、フィロウイルス科に属するマールブルグウイルスおよびクエヴァウイルスのNP-RNA複合体構造を高解像度で決定し、ウイルス粒子形成機構とゲノムRNA の転写・複製機構の構造基盤を明らかにすることを目的とする。本年度は、マールブルグウイルスのNP-RNA 複合体構造解析を実施し、その構造を高解像度で決定した。また、エボラおよびマールブルグウイルスの転写・複製に重要なNPのアミノ酸を複数同定し、ヌクレオカプシドの担う機能の構造基盤を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィロウイルス科マールブルグウイルスの核タンパク質(NP)-RNA複合体の構造解析を行った。クライオ電子顕微鏡法および単粒子解析法を用いて、NP-RNA複合体の三次元構造を高解像度(3.1オングストローム)で決定することに成功した。三次元構造から、NP分子間の疎水性相互作用、NP-RNA分子間の静電相互作用によって複合体構造が形成されていることが明らかになった。また、NPのアミノ酸領域がNP-RNA 複合体の機能やウイルス構造に与える影響を評価する目的で、NP変異体を用いた機能解析を行った。その結果、NPとRNAとの相互作用および隣接するNPとの相互作用に重要なアミノ酸、螺旋状NP-RNA複合体の形成に重要なアミノ酸が明らかになった。これらのアミノ酸は、マールブルグウイルスとエボラウイルスのNPに共通して存在しており、フィロウイルス科において保存されていることも明らかになった。これらの研究成果は、学術論文としてNature Communications 誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
近年、アフリカに限らずヨーロッパやアジアで新規フィロウイルスの発見が相次いでいる。それにより、フィロウイルス科ウイルスの遺伝的多様性が大きく、アジアを含めた広い地域に分布することが明らかになってきた。したがって、既存のエボラウイルスやマールブルグウイルスのみならず、新型フィロウイルスによる新興感染症に備える必要がある。近年ヨーロッパの食虫コウモリから発見された新種のフィロウイルスであるクエヴァウイルスについてもNP-RNA複合体の構造解析および機能解析を実施している。複合体構造を決定し、ウイルス種間で分子構造を比較することによって、フィロウイルス分子進化の理解に繋がる。また、汎くフィロウイルスに効果を示す阻害薬の開発に繋がる構造学的知見を得られることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19およびロシア・ウクライナ戦争の影響で予定していた物品の納期に遅延が生じたため、次年度に購入する計画に変更した。
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