研究課題/領域番号 |
21K07054
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
吉山 裕規 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (10253147)
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研究分担者 |
小野村 大地 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 特任助教 (00910697)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ウイルス発がん / 上皮細胞腫瘍 / Epstein-Barrウイルス |
研究実績の概要 |
Epstein-Barrウイルス(EBV)感染によって起こる上皮細胞の腫瘍形成機構には不明な点が多い。応募者は、初代鼻咽頭粘膜細胞にEBVを感染させ3次元培養すると、細胞の分化に伴い溶解感染が起き、細胞の移動性が高まることを明らかにした。これより、上皮細胞の分化はEBVの溶解感染を誘導し、細胞の腫瘍化を促す可能性があると考えた。 分化度の異なる口腔扁平上皮細胞株にEBVを感染させたところ、持続感染細胞中に潜伏感染しているウイルスゲノム数の多少とは無関係に、溶解感染を起こし持続感染細胞を樹立できないものと、BART microRNAを高発現し、持続感染細胞を樹立できるものに分かれた。持続感染したHSC1/EBV細胞とSCC25/EBV細胞は、増殖性、遊走性、浸潤性が増加し、アポトーシス抵抗性を示した。 EBV関連上皮癌に溶解感染誘導を行うと、ZEB1、SNAIL、TWISTなどのEMTの転写調節因子の活性化がまず起こり、その後、間葉マーカーの誘導と上皮マーカーの抑制が続き上皮間葉転換が起こる。EBNA1とLMP1が、上皮間葉転換を誘導すると言われてきたが、我々の実験結果はBARTmicroRNAが上皮間葉転換に重要であるという結果を得ることができた。 本年度は、胃上皮細胞、上咽頭癌由来細胞、扁平上皮細胞を用いて、EBV感染と非感染細胞の間での発現に差が認められる遺伝子を明らかにし、パスウェイ解析を行い、EBVの溶解感染誘導と腫瘍化促進に関連のある遺伝子を明らかにした。KLF4の発現の程度はEBV遺伝子の発現活性化の程度とよく相関していたため、KLF4は扁平上皮細胞における溶解性EBV複製の活性化に非常に重要であると考えられた。また、EBV感染は、代謝経路、腫瘍化経路、MAPキナーゼ経路、およびPI3キナーゼ/Akt経路などの遺伝子発現を活性化することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子が明らかになった。 EBVの潜伏感染遺伝子であるBART microRNAのプロモーターをルシフェラーゼベクターの上流に組み込んで、BART microRNAの発現阻害薬をスクリーニングする実験系を開発できた。 免疫不全マウスへの腫瘍移植実験を行い、EBV感染細胞は非感染細胞に比べて、腫瘍形成性が強いことが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
作成したBART microRNAのプロモーター活性の測定法を用いて、共同研究により、EBウイルスのBART microRNAの発現を抑制する薬剤のスクリーニングを行う。次に、候補薬でEBウイルス感染細胞を処理し、qRT-PCR法などを用いて、BART microRNAの産生を抑制する薬剤を絞り込む。それらの候補薬の細胞毒性が低いことも確認しておく。 次に、免疫不全マウスを用いたEBウイルス関連腫瘍の移植増殖実験系において、候補薬がEBV感染細胞に対して選択的に増殖抑制、つまり、腫瘍形成を抑制することを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の流行の影響で、参加予定であったウイルス学会がオンライン開催となり、使用を予定していた旅費が余った。また、博士課程に進学予定の留学生の来日が遅れ、消耗品費が予定よりも使用しなかった。さらに、発表予定の論文の完成が遅くなり、校正料や投稿料があまり発生しなかった。これらの原因が重なって、次年度に予算を繰り越すことになった。
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