申請者は前年度までに、HIV持続感染細胞株の代謝状態に応じて特定のタンパク質の等電点が異なること、このタンパク質はリン酸化を受けて核に移行しヒストンアセチル化レベルを調節し、HIVゲノムの転写調節に寄与することを明らかにしている。本年度はまず、感染細胞の代謝状態を経時的に変化させた際のウイルス転写レベルの評価を行った。その結果、HIV持続感染細胞の好気的解糖を阻害した際に低下するウイルスゲノム転写レベルの低下は、この細胞の代謝を好気的解糖に戻すことで好気的解糖阻害前と同レベルまで回復した。次ぎに、前年度までに同定したタンパク質の機能解析を実施した。その結果、ヒト末梢血単核球においてHIV非感染時よりこのタンパク質は好気的解糖下において一部が核移行していることを見出し、HIVはこのタンパク質の生理的機能をハイジャックしていることが示唆された。一方で、HIVが感染標的とする細胞の代謝状態は異なることがフラックスアナライザーによって明らかとなった。HIV感染症の治癒を妨げている最大の要因は、HIVリザーバー細胞が排除できていないことであるが、本研究は、HIV感染細胞は生体内において様々な代謝調節をうけ、好気的解糖が利用できない環境においてリザーバーが成立しやすいことを示しているとともに、HIV感染者にみられる一時的な血中ウイルスの検出であるブリップの一端には、HIV感染細胞の代謝を変化させる要因が存在し、生体内環境において好気的解糖が阻害されていた細胞が再度好気的解糖を利用できるようになったためであることを示唆している。
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