研究課題/領域番号 |
21K07056
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
百瀬 文隆 国立感染症研究所, 感染症危機管理研究センター, 主任研究官 (90332204)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | RNA-RNA相互作用 / RNA二次構造 / 定量RT-PCR / リアソータント / 遺伝子再集合 / リバースジェネティクス / リボヌクレオプロテイン複合体 / RNP |
研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスの8分節化したRNAゲノムが子孫ウイルス粒子へ選択的にパッケージングされるメカニズムは不明だが、異分節間の特異的な塩基対形成によると考えられている。本研究では、この選択的分節集合に必須の塩基配列すなわちパッケージングシグナルを1塩基解像度で決定することを目的とする。本年度は、これまで用いてきたインターカレーション法による定量RT-PCR(RT-qPCR)やサンガー法シークエンシングなどの測定手法を見直し、精度および信頼性の向上を行った。具体的には、分節比測定RT-qPCRを蛍光標識TaqManプローブによる系へ変更したほか、次世代型シークエンサーによる1分子シークエンシング系の構築を目指した。 まず解析対象であるA/Puerto Rico/8/34株およびA/Aichi/2/68株の各8分節について、既存プライマーで増幅したDNA断片に結合するTaqManプローブを設計した。その際、塩基長・融点・禁忌配列など設計諸条件を最適化した。この新規プローブと既存プライマーセットを用いて計4組の「多重検出可能な異なる2分節」を決定し、10~1,000,000コピーの範囲を定量可能なRT-qPCR系を確立した。 次に1分子シークエンシングにも使用する8分節共通の逆転写プライマーを設計した。これまで8分節比の測定では、各分節のDNA断片増幅用フォワードプライマー計8種を等モル混合し逆転写プライマーとしていた。新たに、8分節で共通するゲノム5'端12塩基へハイブリダイズし固有分子識別子等をテーリングさせたプライマーを作成した。このプライマー1種類のみ逆転写に使用してRT-qPCRにより8分節が均等検出できることを確認した。さらにRT-qPCR用プライマー・プローブセットは検量線不要のデジタルPCR法でも使用可能であり、高精度な8分節比の測定も可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は途中に研究代表者が所属機関を変更したため、実験計画の一部遅延がみられた。新設実験室の整備、機器・試薬調達、遺伝子組換え実験などに必要な所属機関内および法令上の手続きも終わり、本年度はほぼ順調に進めることができた。当初の計画ではサンガー法ダイレクトシークエンスにより変異配列の解析を行う予定であったが、より精度・効率がよい次世代型シークエンシングの環境が現所属機関に整備されているため、手法の改善を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
様々な情報を入手し実際に機器操作して検討したところ、本研究で必要とする変異解析を達成するためには、単に次世代型シークエンサーであれば良いわけではないと認知した。インフルエンザウイルスゲノム分節RNA、あるいは逆転写されたcDNAの1分子全長を途切れなく読めるロングリード型シークエンサーが必要であり、リードエラーと1塩基変異を判別可能な正確性があり、超多数の分子を並列シークエンシングして低コストで解析する必要性がある。既存の1分子シークエンシング手法を応用することで達成の見込みはあると考え、実験系の再構築と評価を進めている。 変異による分節比異常の検出・簡易評価にはデジタルPCRでなくともRT-qPCRによる測定で実用上十分と判断した。それよりも、測定対象である子孫ウイルス粒子の真正証明、すなわち感染細胞の残渣などに由来する非ウイルス粒子・遊離ウイルスゲノムが混入していないことの証明が困難であると気づいた。解析結果の信頼性に影響するため、核酸分解酵素による消化や物理的な分画手法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で使用する実験手法に当初計画から変更があり、本年度は主にRT-qPCRに用いるTaqManプローブの新規合成代金に交付金を使用した。また来年度初頭より次世代型シークエンシングを行うこととなり、当初計画よりも解析コストが嵩むことが予想された。そのため「当該年度の所要額」の一部を翌年度使用分として繰越すことにした。
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