インフルエンザウイルスの8分節化したRNAゲノムが、子孫ウイルス粒子へ選択的にパッケージングされるメカニズムは不明だが、異分節間の特異的な塩基対形成によると考えられている。本研究では、選択的分節集合に必須のパッケージングシグナル(PS)を1塩基解像度で決定することを目標とした。第6分節両末端のPS領域を複数の小領域に分け、それぞれ相補塩基へ全置換した変異株を作成すると、3'または5'末端に最も近い小領域の変異により顕著な増殖阻害が観察された。小領域毎に相補塩基置換をランダムに施した変異ウイルスライブラリを作成し増殖可能なウイルス群を選別した結果、やはり3'または5'末端に近い6~9箇所で野生型塩基が優先的に選択された。これらを選択的分節集合に必須の塩基と考え解析を進めた。当初はサンガー法シークエンシングやインターカレーション法による定量RT-PCR(RT-qPCR)を用いたが、1塩基単位の解析では精度および信頼性に限界が生じた。そのため2年度目より次世代型シークエンサー(NGS)による1分子シークエンシング系および蛍光標識TaqManプローブによる分節比測定RT-qPCR系の構築を進めた。 最終年度は、ランダム変異ライブラリから選別した増殖可能ウイルス群の解析をNGSを用いて行った。1クローン毎の配列解析は可能となったが、選別過程で特定クローンが偶然大多数となり多様性が失われ1サンプルあたり数配列しか得られないという問題が生じたため、選別手法の改良を試みている。分節比については、子孫ウイルスにおける変異分節の相対比低下が改良RT-qPCR系でも観察された。感染細胞内の分節比は元株と変異株で大差なく、変異によるゲノム複製効率の低下はなかった。よって変異ウイルスの分節比異常は感染細胞内の分節比変化を反映したものではなく、選択的分節集合過程が阻害されたためと考え解析を進めている。
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