研究課題
HIV感染症では、CD8陽性T細胞は主要組織適合性複合体クラスI(MHC-I)により拘束された複数のエピトープを認識し、ウイルス複製制御に中心的な役割を担う。持続感染に際し、宿主体内のウイルスにCD8陽性T細胞エピトープ領域に逃避変異が選択され蓄積すると、CD8陽性T細胞によるウイルス制御が破綻し病態が進行することが示されている。しかし、HIV/SIV感染症におけるCD8陽性T細胞エピトープの変異選択の階層性は、十分に解明されていない。本研究では、7個体のMHC-IハプロタイプA共有SIV複製非制御サルを用い、MHC-IハプロタイプAに関連する7か所のCD8陽性T細胞のエピトープ領域におけるウイルス変異選択の感染後週数および順序を検討した。SIV複製非制御サルでは、感染後1年以内に7つのCD8陽性T細胞のエピトープ領域のうち5から7か所でウイルス変異が選択されていた。Gag206-216とNef9-19の2つのエピトープ領域において最初に変異が選択され、Vif114-124エピトープ領域では遅く3個体では感染後1年の時点でも変異が選択されず、Gag241-249エピトープ領域での変異選択時期は中間の傾向であった。感染後6カ月間の血中ウイルス量は、感染後1年の時点で変異が選択されたCD8陽性T細胞エピトープ領域数と正の相関があり、感染後早期のウイルス増殖とのちの変異選択の蓄積の関連性を示した。SIV複製非制御個体では、Gag241-249特異的CD8陽性T細胞反応が早期に誘導されていたが、必ずしもGag241-249エピトープ領域における変異の早期選択につながらず、エピトープ領域における変異選択の順序は免疫誘導の優位性のみでは決定されない可能性があることが示唆された。本モデルはエピトープ領域における変異選択順序を決定する要因の解析に有用であり、本研究結果は、ウイルス複製制御下におけるウイルスと宿主CTLとの相互作用の理解に結びつく基盤情報として重要である。
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Microbiology Spectrum
巻: 11(4) ページ: e0151823
10.1128/spectrum.01518-23
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