研究課題
関節リウマチなどの炎症性疾患では、遠隔部位に左右対称性、多発性に炎症病変が形成される。左右対称性ゲートウェイ反射 (G反射)では、片側の足関節における局所の炎症で産生されるATPが感覚神経を活性化し、第5腰髄 (L5脊髄)、下部胸髄のプロエンケファリン+介在神経を介して、反対側の感覚神経を活性化する。活性化した神経細胞の神経終末からATPが放出され、反対側足関節で、炎症が誘導される。R3年度は、左右対称性G反射を、遠隔部位に多発性に炎症を誘導する機構「遠隔炎症G反射」と定義して、J Exp Medに投稿し、受理された (R4年4月現在印刷中)。R3年度はまた、介在神経機能マーカーを解析するために、L5脊髄のシングルセルRNAseq解析を行い、候補分子を抽出した。候補分子の発現分布を免疫染色により確認し、L5脊髄に発現し、プロエンケファリンと活性化神経マーカーリン酸化 c-fosと分布が一致する分子を選定した。また、遠隔炎症G反射の神経回路ネットワークを可視化するための予備検討を行った。遠隔炎症G反射は、IL-6受容体のサブユニットであるgp130にY759F置換を持ち、STAT3シグナルが過剰となるF759マウスの足関節にIL-6とIL-17Aを接種することにより誘導されるが、遠隔炎症G反射と同じ神経回路の活性化は、野生型マウスにATPを接種することでも誘導できる。活性化神経に蛍光タンパク質tdTomatoが発現する c-fos-CreERT-Ai14マウスに、タモキシフェンを投与し、24時間後に、ATPを足関節に3日連続、3回投与すると、L5脊髄にtdTomatoの強いシグナルが検出された。下部胸髄ではtdTomatoのシグナルが顕著ではなかったため、タモキシフェン投与や解析のタイミングをさらに検討することが必要と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、左右対称性(遠隔)炎症ゲートウェイ反射の神経回路の機能マーカーを同定し、その機能を明らかにすることで、左右対称性(遠隔)炎症の病態発症機構を解明することを目的としている。R3年度は、L5脊髄のシングルセルRNAseq解析により行い、介在神経機能マーカーの候補分子を選定することができた。ケモジェネティクスによる機能解析実験に向けて、現在、候補分子のプロモーター領域のサブクローニングを行っている。脊髄のシングルセルRNAseqで安定した結果が得られる方法を確立できたため、今後は下部胸髄についても同様の解析を行う。また、神経回路の可視化のため、c-fos-CreERT-Ai14マウスを用いたTRAPシステムを立ち上げることができた。
R3年度はおおむね順調に研究計画を進めることができ、脊髄のシングルセルRNAseqや、神経回路の可視化のためのTRAPシステムなど、研究の遂行に重要な方法も確立、または立ち上げることができた。R4年度は、これらの方法により、さらに下部胸髄の介在神経機能マーカー候補分子を同定する。機能マーカー候補分子について、主にケモジェネティクスにより、機能を解析する。c-fos-CreERT-Ai14マウスを用いたTRAPシステムの実験条件を確定し、組織透明化により、神経回路の可視化を行う。以上の実験により、左右対称性(遠隔)炎症の病態発生の分子機構を解明する。また、左右対称性(遠隔)炎症性疾患の治療法開発にむけて、関節局所における感覚神経回路の活性化制御法の予備検討を始める。
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