新型コロナウイルス感染症患者のゲノム解析の結果、TLR3(Toll like receptor 3)遺伝子に異常がある人は重症化し易いという報告から(Zhang Q. 2020 Science)、TLR3は新型コロナウイルスを認識し自然免疫を誘導することが示唆されている。そこで申請者は、新型コロナ感染におけるTLR3の自然免疫応答に着目し研究を進めた。 TLR3のアダプター分子のTICAM-1欠損マウスの骨髄由来マクロファージに新型コロナウイルスを感染させた結果、TICAM-1欠損ではインターフェロン誘導が低下していた。 さらに、新型コロナウイルスの変異株を入手し骨髄由来マクロファージに感染させた結果、オミクロン株は自然免疫応答が低下していることがわかった。TLR3は2本鎖RNAを認識することから、オミクロン株の遺伝子の中でも特に変異が蓄積しているSタンパク質をコードする領域のRNA構造を従来株(武漢)と比較した結果、大きく構造が変化していることが明らかとなった。さらに、 in vitroでSタンパク質をコードしている領域のRNAを合成し、マクロファージに添加した結果も野生型に比べてオミクロン株ではインターフェロン誘導が起こりにくいことが示された。この結果はTLR3によるウイルス核酸認識から変異株が逃避していることを示唆するものである。 本研究課題において申請者は、新型コロナウイルスのウイルス核酸認識機構と免疫逃避機構に着目して研究を推進した。本申請に係る原著論文一報を報告し現在2報目を投稿準備中である。
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