研究課題
多発性硬化症 (MS)は自己反応性CD4 T細胞が関与する自己免疫疾患であり、しばしば痛みを伴い、再発と寛解の繰り返しにより症状が悪化する。しかしながら、再発誘導の分子機序は不明であった。我々は以前に、MS動物モデルである移入実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルを用いて、病態寛解期の痛み刺激が感覚神経から交感神経への興奮伝達を介して、EAE初発炎症時に末梢組織から移行し寛解期を通じて中枢神経系 (CNS)に長期定着するモノサイトを活性化することによって病態を再発させることを報告した。本研究では、CNSモノサイトを細胞標的とした創薬を念頭に、当該細胞の長期生存機構を分子レベルで解明し、疾患再発の新しい予防戦略を提示することを目的とする。具体的には、(1) CNSモノサイトの起源と長期生存能の獲得機構の解析、(2) 寛解期におけるCNS モノサイト特異的な表面マーカーの同定と機能解析、(3) CNSモノサイトと血管内皮細胞の特異的な相互作用の解析を行う。
2: おおむね順調に進展している
当期では、寛解期のCNSモノサイトに高発現する受容体Xを同定し、当該受容体を介するシグナル伝達を阻害することによりEAE寛解期に脊髄に残存するCNSモノサイトが有意に減少し、痛み誘導性のEAE再発をほぼ完全に抑制できることを明らかにした。また、EAE発症前後の脊髄での免疫細胞の残存性についてフローサイトメトリー解析で比較・評価を行い、CNSモノサイトはEAE病態発症前・ピーク時・寛解時と時間経過を通して、T細胞やB細胞を含む他の免疫細胞よりも脊髄に残存しやすいことを明らかにすることができた。
今後は、CNSモノサイトの起源と長期生存能の分子機構を明らかにするために、RNAseqや1細胞RNAseq解析など分子生物学的手法を導入して解析を行っていく。予備実験として、コンジェニックマウスを利用し、EAE寛解期のMHCII+CD11b+ CNSモノサイトをセルソーターを用いて単離したが、1細胞RNAseqに供試しうる細胞数には至らなかった。それゆえ、現在はEAE寛解期のマウスより脊髄を採取し、残存している全細胞より核ソーティングを行い、シングル核RNAseqを行う予定で実験を継続している。
次年度使用額(B-A) 19,469円については、発注品が未納のため残額として記録されている。
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