研究課題
これまで、多発性硬化症モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis: EAE)を用いた研究により、髄鞘抗原に反応する末梢T細胞が活性化した後に、中枢神経系(CNS)へと侵入することで、病態が形成されることが明らかとなっている。EAEマウスでは、CNS由来の蛋白質抗原やペプチドを免疫し、血液中に多量の自己反応性T細胞を増加させることで、末梢の免疫細胞がCNS領域へと侵入し、主に第5腰髄で局所的な炎症が引き起こされる。その結果、尾の麻痺から始まる上行性の麻痺を呈する。我々は以前に、EAEマウスにおいて末梢免疫細胞が血液脳関門を突破するための足場形成に、重力による神経刺激およびその刺激により産生されるノルアドレナリンが必要不可欠であることを実験的に証明した。さらに、EAEマウスは通常3週間程度で麻痺症状が寛解するが、感覚神経結紮などの痛み刺激によって、麻痺症状が再燃する機序も発見した。この機序について詳細に検討を行った結果、痛み刺激は一度脳の前帯状皮質で感知された後、下行性に第5腰髄の血管内皮細胞周囲にて交感神経を活性化し、EAE初発時から第5腰髄に残存していた免疫細胞を再活性化することで病態を再燃させることがわかった。実際に、血液内皮細胞に入力する交感神経刺激の遮断は、症状の再燃を抑制した。また、症状再燃に関与する中心的な免疫細胞は、MHCⅡを高発現するモノサイトであり、痛み刺激によりモノサイトとT細胞の抗原提示を介して症状が再燃することや、症状の寛解後も長期にわたってCNSにモノサイトが生存できることが明らかとなった。本研究では、CNSモノサイトの長期生存機構を分子レベルで解明し、症状再燃の抑制を介した多発性硬化症の根治的な治療法開発提示することを目的とする。
1: 当初の計画以上に進展している
髄鞘抗原特異的なT細胞を移入した後、疾患発症後の寛解期にあるマウスより第5腰髄の脊髄や脳関髄液を採取し、当該部位に含まれる免疫細胞をフローサイトメトリー解析したところ、CNSモノサイトにおいて高発現するサイトカイン受容体Xの同定に成功した。また、この受容体はミクログリアにおける発現レベルより有意に高く、当該サイトカインの髄腔内投与により、CNSモノサイトで抗アポトーシス因子の発現が亢進することがわかった。さらに、受容体Xに対する中和抗体の髄腔内注射により当該受容体のシグナル伝達をブロックしたところ、CNSモノサイトは有意に減少し、これに伴って疼痛刺激依存的なEAEの再発が抑制された。本実験結果は現在、論文にまとめて投稿中である。
EAE寛解期のマウスより脊髄を採取し、残存している全細胞より核ソーティングを行い、シングル核RNAseqを行う。
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Int Immunol.
巻: dxad004 ページ: dxad004
10.1093/intimm/dxad004
巻: dxad006 ページ: dxad006
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実験医学
巻: 40 ページ: 2456-2466