研究課題/領域番号 |
21K07080
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中濱 泰祐 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10636187)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | RNA編集 / ADAR1 / AGS / 脳症 / MDA5 |
研究実績の概要 |
エカルディ・グティエール症候群(AGS)はインターフェロン(IFN)の発現上昇を伴う先天性脳症であり、その原因遺伝子の一つに2本鎖RNA中のアデノシンをイノシンへと置換するRNA編集酵素ADAR1がある。最近、RNA編集には内在2本鎖RNAの構造を緩め、細胞質センサー分子MDA5による非自己としての認識を回避する機能があることが明らかになってきた。AGS発症はこの機構の破綻によるものと考えられるが、現状ではAGS脳症を再現するモデルは確立されていない。そこで、Adar1遺伝子にAGS型変異(K948N)をノックイン(AGS KI)したマウスを樹立したところ、RNA編集の低下や脳をはじめとする様々な臓器においてIFN誘導遺伝子群(ISG)の発現上昇が認められた。本研究では、樹立したAGS KIマウスのモデルとしての妥当性を評価し、AGS脳症の病態形成機構を解明することを目指す。 初年度はAGS KIマウスを用いて病理解析を実施した。その結果、脾腫や心臓、肺、肝臓におけるリンパ球浸潤などが認められた。一方で、脳における炎症所見は限定的であるものの、1年齢のAGS KIマウスがグリオーシスを伴う白質病変を示すことを見出した。また、AGS KIマウスにおけるISGの発現上昇は、MDA5ノックアウトやADAR1のp150 isoformのみを発現することにより正常化したため、K948N変異がADAR1 p150の編集活性を低下させることがMDA5の活性化につながるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、樹立したAGS KIマウスのモデルとしての妥当性を評価した。様々な臓器に炎症所見が認められたことに加え、脳においてはグリオーシスを伴う白質病変が認められた。症状は軽度であるものの、本マウスが脳症を含むAGS様症状を示すことを明らかにできた。また、AGS KIマウスが示すAGS様症状はADAR1 p150 isoformの編集活性低下に依存することを見出し、これらの研究成果を論文として報告することもできた。このため、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き病理解析を実施し、加齢に伴いAGS様脳症が重症化するか検証する予定である。一方で、本マウスが示す症状が比較的軽症であることから、今後の病態解析については、研究室で保有する他のADAR1変異マウスの活用も検討する。また、来年度は、ADAR1 p150特異的な編集部位やADAR1変異マウスにおいて著しく編集が低下する部位を指標として、MDA5を活性化する候補の絞り込みへと進めていく。
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