研究課題/領域番号 |
21K07087
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今西 貴之 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (10513442)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | T細胞 / 老化 / mTOR |
研究実績の概要 |
Receptor-interacting kinase 1 (RIPK1)はTNF受容体やToll様受容体の下流においてNF-kB依存的な生存シグナル、caspase-8によるアポトーシス、RIPK3依存的なネクロプトーシスを誘導することが知られている。最近、ヒトのRIPK1欠損は、免疫不全や炎症性疾患を引き起こすことが報告された。興味深いことに、RIPK1欠損患者はリンパ球減少を示し、T細胞に発現するRIPK1の重要性が示唆された。そのため、本研究ではT細胞に発現するRIPK1の生理的意義を明らかにすることを目的とした。RIPK1flox/floxマウスをCD4-Creトランスジェニックマウスと交配することにより、T細胞特異的なRIPK1欠損(RIPK1-tKO)マウスを作製した。RIPK1-tKOマウスはRIPK1欠損患者と同様に抹消のT細胞が減少し、抗CD3/28刺激によるT細胞の増殖が低下することが認められた。RIPK1の欠損はT細胞の早期の老化を引き起こし、RIPK1-tKOマウスは生後5ヶ月頃から様々な組織・臓器の炎症、神経変性、サルコペニア、貧血、低血糖などの加齢性疾患を発症し、早期に死亡することが明らかになった。また、RIPK1欠損CD4T細胞ではAkt、mTORC1、ERKの活性化の上昇が認められた。RIPK1欠損マウスにおける末梢性CD4 T細胞数の減少、増殖反応の低下、Akt、mTORC1、ERKの活性化の増強、老化関連遺伝子の発現上昇はRIPK3の欠損により部分的に回復することが示された。さらにRIPK3の欠損とcaspase-8の活性化の抑制により、RIPK1欠損CD4 T細胞における増殖反応の障害、Akt、mTORC1、ERKの活性化の上昇、および老化関連遺伝子の発現の増加がほとんど完全に回復することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでT細胞に発現するRIPK1の機能は不明な点が多かったが、本研究によりRIPK1がT細胞の老化を負に制御していることが明らかになった。また、T細胞の老化が加齢性疾患の発症におよぼす影響は明らかでなかったが、本研究により、加齢性疾患の発症にT細胞が重要な役割を果たすことが明らかになった。さらにRIPK1がT細胞の老化を負に制御する分子機構を明らかにすることができた。 このようにT細胞に発現するRIPK1の機能を細胞・個体レベルで明らかにするとともにRIPK1の作用機序を分子レベルで解明することができたことから、本年度は概ね順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
RIPK1-tKOマウスをmTORC1阻害剤のラパマイシンで処理するとCD4T細胞の老化関連遺伝子の発現が低下するとともに血中の炎症性サイトカインの産生が低下するが、加齢性疾患の発症を抑制できるかは明らかでない。そのため、RIPK1-tKOマウスをmTORC1の構成因子であるRaptor欠損マウスと交配し、加齢性疾患の発症を観察する。 また、RIPK1/RIPK3/caspase-8の三重欠損マウスを作製し、in vivoでRIPK1がRIPK3とcaspase-8の機能を抑制しているか調べる。 T細胞の老化に伴う加齢性疾患の発症がある特定の自己抗原に対する応答の結果なのか、それとも抗原非特異的な炎症応答の結果なのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
目的のマウスの交配が遅れたため、解析に必要な試薬を購入することができなかった。 参加予定の学会がオンライン開催になったため、旅費が生じなかった。 次年度は目的のマウスが十分に確保できる見込みがあるため、本年度購入できなかった試薬を購入する予定である。
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