研究実績の概要 |
私達はこれまでに,TRIB1がMEKとの結合によるMAPキナーゼ経路の活性化の持続とC/EBPαの分解により急性骨髄性白血病を誘導する機能について複数の論文を報告している.本研究ではTRIB1がヒト肺がん細胞株A549細胞へのTGF-β刺激により発現誘導され,C/EBPαタンパク質の分解が促進されることを新たに見出したことからTRIB1の固形がんにおける機能について検証した.A549細胞においてゲノム編集によりTRIB1 KOクローンを複数作製した.TRIB1 KO細胞は低血清条件において,ERK1/2のリン酸化や細胞増殖速度が減少し,TGF-β刺激による細胞運動能の亢進も抑制された.TRIB1 KO細胞にTRIB1 ⊿ILL変異体 (MEK結合配列を欠失) を再導入したところ細胞運動能を回復させたが,ERK1/2のリン酸化や増殖速度は回復しなかった.一方でTRIB1 KR (K207R, C/EBPαと結合しない) 変異体をTRIB1 KO細胞に再導入した場合はERK1/2のリン酸化や増殖速度は回復するが,細胞運動能は回復しなかった.また,TRIB1 KO細胞では足場非依存性増殖能が低下したが,これは増殖速度を回復させることができるTRIB1 KR変異体を再導入しても回復しなかった.ルシフェラーゼを発現させた細胞をヌードマウスの尾静脈から移植し,IVISイメージングによる解析を行った.移植4週間後においてA549細胞の親株と,TRIB1 KO細胞にTRIB1を再導入した細胞は肺への定着が見られたが,TRIB1 KO細胞の定着は著しく減少した.また,TRIB1⊿ILLおよびKR変異体の再導入細胞はいずれも肺への定着能を回復せず,TRIB1によるMAPキナーゼ経路の活性化とC/EBPαの分解はどちらもTRIB1による発がん機能に必須であることが示された.
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