研究課題/領域番号 |
21K07097
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
板谷 喜朗 京都大学, 医学研究科, 助教 (80814029)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍微小環境 / 大腸癌肝転移 |
研究実績の概要 |
大腸癌は日本人のがん罹患数第一位(2019年)、がん死は第二位(2021年)の癌種で、罹患患者数は年間15万にのぼり、死亡数は年間5万2千人にのぼる(2021年全国がん登録)。大腸癌は原発にとどまるうちは治癒切除可能なことも多いが、ひとたび転移をきたすと致命的となるケースが多く、ステージ4大腸癌の5年生存率は17.3%と低い(国立がん研究センターがん情報サービス)。したがって、転移性大腸癌に対する治療戦略を構築することが重要であるが、その転移メカニズムは解明されていないことが多く、課題としては適切な動物モデルの欠如があげられる。大腸癌の転移でもっとも高頻度の臓器は肝臓である。我々は大腸癌の腫瘍微小環境に注目し、大腸癌肝転移の促進機序や薬剤耐性機序などを、マウスモデルや臨床サンプルを用いて検証してきた。我々が以前報告した大腸癌肝転移マウスモデル (Itatani_ProcNatulAcadSciUSA2020)では、villinプロモーターでCreを発現するマウスに、Kras(LSL-G12D)変異とPtenノックアウト(-/-)を合わせ持つマウス(villin-KPマウス)以外にも、今回同様のvillinプロモーターマウスを用いて、Kras変異とTrp53ノックアウト(-/-)を掛け合わせたマウス(villin-KTマウス)でも同様に大腸癌原発巣に加えて、肝転移巣を形成することが分かった。このvillin-KPマウス、villin-KTマウスを用いて、原発巣と肝転移巣において、生理的な肝転移の形成過程に迫ることを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一昨年度までの研究ではvillin-KPマウスを用いて腫瘍微小環境の免疫、血管新生、サイトカインにかかわる因子に関する網羅的解析で、G-CSF、GM-CSFの発現上昇を認めることが分かった。本発現解析は組織単位の発現解析であったため、昨年度はあらたに作成した大腸癌肝転移マウスモデルのvillin-KTマウスも併せて、大腸癌原発巣、肝転移巣から腫瘍細胞のみを単離培養するオルガノイド培養を試みることとした。一般的に腸上皮のオルガノイド培養はWNTシグナル刺激が必須である。ヒト大腸癌の9割以上がWNTシグナルのkey factorであるAPC遺伝子変異を背景に形成されることもそれを裏付ける。したがって、ヒト患者サンプルから採取した大腸癌primaryオルガノイドではWNTリガンドを加えて培養することが一般的である。しかし、本マウスモデルでは、villin-KPマウスもvillin-KTマウスも、腫瘍でのWNTシグナルが(原理上)不活性化状態であるにもかかわらず、原発の大腸腫瘍から樹立したprimaryオルガノイドも、肝転移巣から樹立したprimaryオルガノイドも、通常の培養液で培養・継代が可能であった。本結果は極めて興味深く、今後これらのオルガノイド培養を用いてどのようなシグナル改変が生じているか検証予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今までは大腸癌肝転移のマウスモデルは、一般的に脾臓や門脈などから癌細胞を大量に注入し、生着した癌細胞を観察してきた。その際に一度に大量の癌細胞が肝臓へ注入されるため、急性肝阻血性障害が生じ、その回復過程で生着した癌細胞を観察していた。しかし、この実験系が果たして人体で大腸癌が肝転移をきたすときの生理的な現象を反映しているのか疑問があった。本研究では自然発生大腸癌肝転移マウスモデルを用いることでこの疑問・課題を克服し、より生理的な大腸癌肝転移の観察が可能となると考えている。前述のごとく、WNTリガンドなく培養可能なvillin-KPオルガノイド、villin-KTオルガノイドで細胞内でどのような生理活性が生じているのか、その現象が大腸癌肝転移と関係があるのか、腫瘍微小環境の網羅的解析に加えて、癌細胞内でのシグナル解析が必要になると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
有効な利用のため小額の繰越金が生じた。 次年度の物品費に充当の予定である。
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