研究課題/領域番号 |
21K07099
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
清水 一也 神戸大学, 保健学研究科, 保健学研究員 (50335353)
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研究分担者 |
三好 真琴 神戸大学, 保健学研究科, 助教 (50433389)
堀 裕一 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (80248004)
味木 徹夫 神戸大学, 医学部附属病院国際がん医療・研究センター, 教授 (80379403)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膵臓がん / 神経浸潤 / オルガノイド |
研究実績の概要 |
研究の全体構想は膵癌細胞の神経浸潤の分子機構を明らかにして予後改善のための新規治療法を創出することである。膵臓がんは5年生存率が10%以下と最も予後不良の疾患であり、遠隔転移や局所浸潤が予後を左右する。中でも神経浸潤が特徴と言えるほど切除標本において高率に神経浸潤を認めるが、術後のQOLを考慮すると、手術では遺残する可能性が高い。我々はこれまでに正常膵幹細胞と高悪性度のヒト膵癌細胞が幹細胞マーカー(CD133)を発現することを明らかにした(Stem Cells 2008; Pancreas 2009; Pathobiology 2011)。また、既存の抗がん剤Gemcitabine(GEM)に耐性の膵癌患者から10種類のCD133陽性膵癌幹細胞株を樹立し、細胞外基質を再構築することで自己複製能を獲得することを明らかにした(PLoS One, 2013)。また、これまでにマウス膵臓組織幹細胞にGreen Fluorescent Protein、変異型KRASG12D、変異型p53、cyclin dependent kinase 4を遺伝子導入してマウス人工膵癌細胞(親株)を作成している。さらに、in vivoで作成した親株由来腫瘍にGEMを長期投与することにより、耐性を獲得した腫瘍からGEM耐性株を樹立した。本研究では、我々が樹立した①ヒト膵癌幹細胞株や②マウス人工膵癌幹細胞株とマウス後根神経節とのオルガノイド培養モデルで神経浸潤を再構築し、新規治療法を開発する。初年度は、神経浸潤ありと診断された膵臓癌の手術標本を用いて、膵臓内神経節や腹腔神経節などの神経マーカーを探索した。さらに、我々が作成したマウス人工膵癌細胞を使って我々が開発した同所性膵癌組織片移植法により、マウス内での膵内神経浸潤を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) ヒト膵臓がんの神経浸潤の解析:初年度は膵臓がんの神経浸潤を診断された患者の切除標本を使ってCA19-9 (膵癌細胞マーカー)との蛍光二重染色により、末梢神経に特徴的なマーカーを探索したところ、膵癌細胞浸潤を認める膵内神経節や腹腔神経節でperipherinとmyelin protein zeroが陽性であることが判明した。 (2) マウス人工膵癌幹細胞もマウス膵臓内で神経浸潤を起こすかの検討:初年度は、従来から多用される同所性膵癌細胞移植法に対して、よりaggressiveな表現型(高転移能・神経浸潤能)を再現する目的で、同所性膵癌組織片移植法を開発した。ヒト膵癌幹細胞株を使いヌードマウスに移植したこのモデルでは有意に転移能が亢進し、一部に膵内神経浸潤も認めた(投稿準備中)。一方、CD133陽性マウス膵臓組織幹細胞にGreen fluorescent protein、変異型KRASG12D、変異型p53、cyclin dependent kinase 4を遺伝子導入したマウス人工膵癌細胞(親株)ならびにGEM耐性株を使って、同様の実験を行ったところ、再現性は必ずしも高くはないが、マウス人工膵癌細胞GEM耐性株を同所性膵癌組織片移植した時に、ヒト膵癌と同様の神経浸潤を認めた。 (3)in vitroでの神経浸潤モデルの構築 初年度は、膵内神経の代用として、マウスの後根神経節(dorsal root ganglion: DRG)を使用した。野生型マウスより分離したDRGの免疫染色の結果、膵内神経同様に、peripherinとmyelin protein zeroが陽性であることが判明した。また、神経周膜がclaudin1陽性であることも明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、我々が独自に樹立作成した(1)ヒト膵癌幹細胞株や(2)マウス人工膵癌幹細胞株をマウスDRGとオルガノイド培養して神経浸潤モデルを構築し、その分子機構を明らかにして、神経浸潤抑制の新規治療薬の開発を目指す。初年度の実績から、ヒト膵癌幹細胞株あるいはGEM耐性マウス人工膵癌細胞をin vivoで移植すると臨床例と同様に膵内神経節への神経浸潤を認めた。今後はマウスDRGを使って、in vitroでの神経浸潤モデルを構築するために、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、マウス脳微小血管内皮細胞(bEnd3)、初代培養マウス腹腔マクロファージ、T-cell/B-cell欠損Rag2ノックアウトマウスに作成した腫瘍組織などを加えたオルガノイド培養を行ない臨床例に近いモデルを目指す。最近、ヒト膵癌細胞株由来のエクソソームが自身の癌細胞に上皮間葉転換を誘導すること、その分子機構にはエクソソーム内のTransforming growth factor-beta1が部分的に関与していることを見出し、さらには転移の極初期のプロセスであることを報告した(Shimizu K, Hori Y et al. Pancreatic cancer cell-derived exosomes induce epithelial mesenchymal transition in human pancreatic cancer cells themselves partially via transforming growth factor-beta1, Med Mol Morphol in press, 2022)。本研究では、神経浸潤と上皮間葉転換にも着目して検討を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の流行による緊急事態宣言による研究室への立ち入り禁止や物流制限により、申請時の予算の執行ができなかったため、繰越金が発生した。
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