本研究では、EGFR遺伝子変異陽性肺癌におけるEGFR-HER2ヘテロダイマーの細胞内動態を明らかにするとともに、HER2に対する抗体薬物複合体の作用機序を明らかにし、EGFR遺伝子変異陽性肺癌に対する新たな治療戦略の礎とすることを目的とする。これまでに下記について明らかにし、学会、論文報告を行った。 1)EGFR野生型よりもEGFR変異陽性肺癌細胞株においてEGFR-HER2ヘテロダイマー形成の発現が高いことを確認した。2)HER2増幅を認める細胞ではHER2は長時間細胞表面に留まるものの、HER2増幅を認めない細胞ではHER2は速やかに細胞質内に取り込まれることを確認した。HER2増幅を認めない細胞において内在化しているHER2はほとんど全てがEGFRと共存していた。3)EGFR野生型細胞に比してEGFR遺伝子変異陽性細胞では、内在化されたHER2は速やかにリソソームに輸送されていることを確認した。4)抗HER2抗体薬物複合体であるトラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)に対する効果を確認したところ、EGFR遺伝子陽性肺癌において、T-DM1に対する感受性が高く、その感受性はオシメルチニブ耐性後の細胞株においても保たれていた。 これらの実験結果は、EGFR遺伝子変異陽性肺癌においては多数のHER2-EGFRヘテロダイマーを形成することで、EGFRを介したHER2の細胞質への取り込を増加させるとともにリソソームへの取り込も増加せざることでT-DM1の感受性が高いことを示しており、抗HER2抗体薬物複合体がEGFR遺伝子変異陽性肺癌に対する新たな治療戦略に成り得ると考えられた。他の抗HER2抗体薬物複合体(トラスツズマブ・デルクステカン: T-DXd)に対するEGFR遺伝子陽性肺癌の感受性の確認を行った。In vivoでの効果の確認を行ったが、T-DM1の十分な効果は認めなかった。
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