研究課題/領域番号 |
21K07103
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
山本 雅達 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (40404537)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 浸潤性小葉癌 / RNAseq |
研究実績の概要 |
がん微小環境は腫瘍細胞が増殖・転移する上で重要な運命決定を担う免疫応答や間質を構成する細胞や液性因子からなり、それらはがん治療の標的となる性質を有している。ANKRD35は浸潤性小葉癌患者において高発現群が予後良好を示す機能未知の遺伝子として同定された。先行実験において、ANKRD35を強制発現する乳がん細胞はマウス移植モデルで増殖抑制を示し、その腫瘍組織ではTGFβ1の発現が減少し、抗腫瘍活性を示すI型好中球(N1)の浸潤が確認された。本研究はANKRD35発現株においてなぜTGFβ1の発現が減少したのか、そのメカニズムついては未だ不明であることから、特にTGFβ1の発現抑制に注目してANKRD35の機能解析と腫瘍移植モデルにおけるANKRD35発現株の腫瘍抑制メカニズムについて詳細な解析を行なうことを目的とする。さらに応用研究として、腫瘍においてANKRD35-TGFβ1シグナリングを制御することで、N1優位のがん微小環境を誘導し、免疫チェックポイント阻害療法などの治療成績が向上するかどうかをマウス移植モデルを用いて検討する。ことを目的としている。 本年度においてはANKRD35発現株のRNAseq解析からTGFβ1の発現抑制に注目してその転写調節因子であるEGR1、SP1、NF1、ZF-9、NF-κB、C/EBPβやSMADsの発現変化から、ANKRD35発現株におけるTGFβ1の発現低下メカニズムを検討した。また先に得られたANKRD35発現株に加えてドキシサイクリン誘導性発現株をもちいて乳がん細胞マウス移植モデルを作製するために、ドキシサイクリン誘導性発現株を樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行実験においてANKRD35発現株を作製したcDNAは、現在ではANKRD35のvaliant 2として登録されるTruncation Typeを示すことから、改めてFull lengthを示すANKRD35のvaliant 1のcDNAを入手してANKRD35発現株を作製した。 RNAseq解析にはコントロールベクターを導入したCONT株とTruncation Typeを発現するANKT株に加えてFull lengthを発現するANKF株を用いた。 また、先行実験においてクローニングされたANKRD35発現株の中でも、ANKRD35高発現株を移植されたマウスではほとんど腫瘍を形成せずに腫瘍サンプルを十分に得られなかったことから、通常培養されたトータルRNAを用いてRNAseq解析を行った。 その結果、TGFB1の転写調節因子であるSP1、NF1、CEBPB、SMAD1、4、5、6、7について発現変化は見られなかったが、ZF-9(KLF6)やSMAD3はCとTで変わらずFで半減し、SMAD9はCとTで変わらずFで10倍に亢進していた。 一方、RNAseqデータからGSEAを行った結果、ANKTはDNA_DEPENDENT_DNA_REPLICATIONに関連するReqQやCDKなどの発現が減少し、ANKFはMITOTIC_SISTER_CHROMATID_SEGREGATIONに関連するSMC2、3やSLF2(SMC5-SMC6 complex localization factor 2)などの発現が減少していた。このようにANKRD35の一次構造においてSMCドメイン構造が異なるTruncationとFull lengthタイプで染色体構造をメンテナンスするタンパク発現に異なる影響を示すことは、通常培養における細胞増殖抑制を示すANKRD35の機能理解に貢献できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
CONT、ANKT及びANKF株の通常培養においてTGFB1の転写調節因子の発現変化は見られなかったことから、TGFB1の発現調節においても移植モデルにおける腫瘍環境が影響していると考えられる。 また、先行実験においてクローニングされたANKRD35高発現株はほとんど腫瘍を形成せずに腫瘍サンプルを十分に得られなかったことから、本年度に作製したドキシサイクリン誘導発現株を用いた移植実験を行い、ANKTおよびANKFの発現誘導後に腫瘍縮小を示せば、その過程におけるサンプリングを行い、TGFB1の発現調節のメカニズムに関して解析を行う。 一方で、通常培養ではTGFB1の発現に変化が見られないことから、スフェア培養や栄養飢餓、または低酸素条件下の培養サンプルからTGFB1の発現に変化が生じるかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度にマウスモデル作製とRNAseq解析に費用が生じるため、2021年度の支出を抑えた。
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