研究課題/領域番号 |
21K07107
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鴨下 渚 早稲田大学, 高等研究所, 研究助手 (30835814)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞競合 / 細胞死 / がん変異細胞 / MHC-I |
研究実績の概要 |
MHC-IaとMHC-Ibは構造的に類似しており、特にAltRと相互作用するa3ドメインにおける相同性は90%以上である。したがって、MHC-IbもAltRと結合できる可能性が高く、MHC-IbがMHC-Ia/AltR結合に対して競合的に作用することで、抑制的に働くと考えられる。すなわち、MHC-IbはAltRと相互作用することで、MHC-Iaのシグナルを競合的に遮断する可能性が考えられた。しかし当初、MHC-IbとAltRのタンパク質間相互作用の詳細を解析することとしていたが、MHC-Ibはリバースシグナルにより細胞死を誘導することがわかってきた。すなわち、AltRに対して競合的に作用することで、細胞の排除に対して抑制的に働いたのではなく、DLA12/MHC-Ibは他の表現系である細胞死の誘導に寄与していることがわかってきた。細胞の排除効率を解析した結果、extrusion効率はDLA12/MHC-Ibによって抑制されていたが、細胞死効率はMHC-Ib/DLA12の効果により促進しており、extrusionと細胞死を合わせて、排除効率全体でみると排除は促進していることがわかった。これらのことから、DLA12/MHC-Ibは、extrusionに対して抑制的に働くのではなく、細胞死へとスイッチングすることにより、がん変異細胞の排除を促進していることが示唆された。また、細胞死を誘導するMHC-Ibに結合するリガンドも同定しているため、今後はこのリガンド・タンパク質がどの様にMHC-Ibを介して細胞死を誘導するかについての解析にと着手する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
MHC-IbとAltRのタンパク質間相互作用の詳細を解析することとしていたが、MHC-Ibはリバースシグナルにより細胞死を誘導することがわかってきた。すなわち、AltRに対して競合的に作用することで、細胞の排除に対して抑制的に働いたのではなく、DLA12/MHC-Ibは他の表現系である細胞死の誘導に寄与していることがわかってきた。これは、当初のDLA12が細胞排除機構に対して抑制的に働くという仮説とは異なっている。しかしながら、DLA12遺伝子欠損が変異細胞の排除効率を促進した理由として、細胞死誘導へのスイッチングであることがわかってきたことから、かなりの進展であると考えられる。細胞の排除効率を解析した結果、extrusion効率はDLA12/MHC-Ibによって抑制されていたが、細胞死効率はDLA12/MHC-Ibの効果により促進しており、extrusionと細胞死を合わせて、排除効率全体でみると排除は促進していることがわかった。これらのことから、DLA12/MHC-Ibは、extrusionに対して抑制的に働くのではなく、細胞死へとスイッチングすることにより、がん変異細胞の排除を促進していることが示唆された。以上のように、新たなる細胞死誘導機構がextrusionと連続する機構が想定された。この機構の解明に必須であるMHC-Ibのリガンド候補分子も同定できており、この点からも本研究の進捗は非常に良いと考える。
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今後の研究の推進方策 |
細胞死を誘導するMHC-Ibに結合するリガンドを既に同定しているため、今後はこのリガンド・タンパク質がどの様にMHC-Ibを介して細胞死を誘導するかについての解析にと着手する。RNA seqの結果から同リガンドによって誘導される細胞死は、アポトーシスであることが示唆されている。そのため、いくつかの細胞死マーカーについて解析をおこなうことで、実際にアポトーシスであることを検証する。さらに、リガンドがMHC-Ibを対象として作用し、がん変異細胞に細胞死シグナルを誘起しているかを解析する。MHC-Iaの場合は、細胞外ドメインであるa3ペプチドの一部が、正常細胞のAltRに作用することで、変異細胞の排除効率を促進させる。同様にして、同定したリガンドは、MHC-Ibのα3ドメインに結合することがわかっているが、この結合がどの様に細胞死を誘導するかは不明である。細胞死誘導の可能性として、MHC-Iのホモ複合体形成などが考えられるため、MHC-Iの複合体構成因子の解析により、細胞死誘導機構の詳細を解明する。手法としては、MHC-Ibリコンビナントタンパク質を用いたプルダウンによるスクリーニングをおこなう。プルダウンによる同定の詳細については、BLI法を用いてMHC-Ibへの結合タンパク質の見掛け上のタンパク質量をモニターしながら、経時的な結合分子の同定をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想された結果よりも早い進捗であり、それにともない解析のための機器が必要となった。そのため、2021年度と2022年度分を合算することで、機器の購入に充てる。
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