研究課題/領域番号 |
21K07109
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
辻内 俊文 近畿大学, 理工学部, 教授 (10254492)
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研究分担者 |
池田 裕子 近畿大学, 理工学部, 助教 (90806465)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リゾフォスファチジン酸 / LPA受容体 / 抗がん剤 / 放射線 / がん細胞 |
研究実績の概要 |
脂質メディエーターであるリゾフォスファチジン酸(LPA:lysophosphatidic acid)は、Gタンパク共役型LPA受容体(LPA1~LPA6)に結合することで多様な細胞応答を誘発する。近年、がんの発生・進展にLPA受容体シグナル異常が検出されるとともに、LPA受容体シグナルの活性化が、がん細胞の増殖・運動・浸潤・転移および造腫瘍性などのがん細胞の増悪化制御に深く関わることが明らかになりつつある。さらに、がん細胞の抗がん剤抵抗性獲得にもLPA受容体シグナルが重要な役割を担うことが示唆されている。今年度は、がん細胞の抗がん剤・放射線感受性の制御における各LPA受容体の役割を検索することを目的として研究を行った。 ①抗がん剤処理によるがん細胞の細胞生存率に対するLPA受容体の機能解析:骨肉腫(MG-63)細胞のシスプラチン(CDDP)に対する細胞生存率は、GRI-977143(LPA2アゴニスト)処理にて上昇、(2S)-OMPT (LPA3アゴニスト)処理により低下した。また、CDDPに対する細胞生存率は、LPA4ならびにLPA6ノックダウン細胞において有意に上昇することがわかった。 ②がん細胞の放射線抵抗性におけるLPA2の増強作用:膵がん細胞に放射線を照射するとLPA2発現レベルの上昇が見られることから、LPA2ノックダウン細胞を作成し放射線照射を行ったところ、コントロール細胞に比してLPA2ノックダウン細胞の細胞生存率は有意に低下した。Western blot法によるcleaved PARP-1タンパクの解析により、LPA2を介するアポトーシス抑制効果が放射線抵抗性増強につながることが示された。一方、放射線によるDNA損傷・修復は、コントロール細胞およびLPA2ノックダウン細胞間で差異は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗がん剤処理により発現誘導されるLPA受容体を標的にノックダウン細胞を作成し、抗がん剤処理がん細胞の細胞機能制御における役割を計画通りに進めている。また、放射線照射に対するがん細胞の細胞生存率における各LPA受容体の機能解析に関しても、ノックダウン細胞を用いた実験ならびにwestern blot法によるアポトーシスの検出など支障なく遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度はこれまでに得られた研究結果をもとに実験を進める。 単一のがん細胞培養環境下のみならず、ヒトがん症例における抗がん剤抵抗性獲得を想定し、固形腫瘍におけるがん細胞をとりまくがん微小環境が、がん細胞の悪性化に及ぼす影響とそれによるLPA受容体シグナルの分子機構の検索を試みる。特に、がん微小環境における炎症反応ががん細胞の生物学的増悪化を促進することが報告されていることから、炎症巣で発生する活性酸素に着目し、がん細胞に過酸化水素処理を行って発現変動の見られるLPA受容体を同定するとともに、標的受容体ノックダウン細胞を作成することで細胞機能解析を行う。また放射線照射においても活性酸素が重要な役割を担うことから、放射線抵抗性獲得機構の視点からも同様に追及する。さらに、長期放射線分割照射によって作成したがん細胞を用いて、細胞増殖・運動・浸潤ならびに抗がん剤に対する細胞生存率の解析も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度経費支出のうち、余剰分は212157円となった。予定していた研究計画通りに順調にデータの収集ができたことと、細胞培養に必要な消耗品を無駄なく使用するとともに購入に際しても安価で入手できたことが要因である。貴重な財源であるゆえ、タンパク質発現解析に用いる抗体や各種酵素など高額な試薬のさらなる購入にあて、研究最終年度分経費とあわせて有効に活用する。
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