研究課題
リゾフォスファチジン酸(LPA)は、6種類のLPA受容体(LPA1-LPA6)に結合し正常細胞のみならずがん細胞においても多様な細胞応答を調整する。近年、がん細胞の増殖・浸潤・転移の促進に、LPA受容体を介する細胞内シグナルの活性化が作用することが明らかとなりつつある。研究最終年度は、抗がん剤処理・放射線照射によるがん細胞の生物学的特性の変化におけるLPA受容体シグナルの機能を解析するとともに、がん微小環境にも着目し、低酸素・低栄養環境下におけるがん細胞の増悪化におけるLPA受容体シグナルの分子機構についても検索をすすめた。骨肉腫細胞に放射線を照射(0~8 Gy)したところ、LPA2・LPA3遺伝子発現に有意な上昇がみられた。放射線照射後の骨肉腫細胞における抗がん剤(シスプラチン)に対する細胞生存率は、 LPA2アゴニスト処理により増加し、LPA3アゴニスト処理により減少した。さらに、膵がん細胞を用いて1%酸素濃度による低酸素培養を行い膵がん細胞の細胞機能を解析したところ、1%酸素培養下にてLPA2・LPA3遺伝子発現は上昇し、細胞運動能は有意に低下した。一方、シスプラチン処理に対する細胞生存率は21%酸素に比して1%酸素培養により有意に増加した。また、低グルコース培養膵がん細胞においてLPA1・LPA2遺伝子発現レベルの上昇が見られた。膵がん細胞のシスプラチンに対する細胞生存率は、高グルコース培養に比して低グルコース培養では低下するものの、1%酸素濃度培養にて細胞生存率は増加することがわかった。本研究により、がん細胞の抗がん剤・放射線感受性の調節においてLPA受容体シグナルが重要な役割を担うことが示唆された。また、本研究で取り組んだがん微小環境によるがん細胞の増悪化におけるLPA受容体シグナルの生物学的役割に関する解析は、今後の課題としてさらに追及する必要がある。
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