研究課題/領域番号 |
21K07111
|
研究機関 | 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
安田 純 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所), 研究所全般, 所長 (00281684)
|
研究分担者 |
伊藤 信 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所), 発がん制御研究部, 研究員 (10724619)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 肺がん / 遺伝性腫瘍 / エキソーム解析 |
研究実績の概要 |
非小細胞肺癌の発生には環境・行動因子の他、遺伝的要因も寄与するとされる。家族発症肺癌症例の全エクソーム解析(WES)を行った報告は世界的にも少ない。宮城県立がんセンター呼吸器外科において家族で肺癌を発症し手術を受けた患者23人の臨床情報と病理標本を収集し、生殖細胞系列と体細胞系列の両方のWESを行った。体細胞系列ではEGFRとTP53遺伝子など頻出の変異が検出された一方、生殖細胞系列ではMiller症候群の原因遺伝子であるDHODH遺伝子の病的変異p.A347Tが同一家系内で共有されていた。本知見は論文としてまとめることができたが、その後他病院での手術症例の検体収集に努めている。また並行して院内で類似症例の探索のためにがん遺伝子パネル検査を受検した肺癌患者などで同遺伝子の変異の有無を探索することを検討したが、保険収載されているがん遺伝子パネル検査ではDHODH遺伝子は解析対象とはなっておらず、類似症例の探索には時間がかかっている。一方で、C-bioportalなどのデータベース検索では論文にも記載した通り、肺癌の一部症例でDHODHの欠失が検出されており、さらに癌ドライバー遺伝子との相互作用ないしは相互排他性についてさらに検討したところ、KRAS遺伝子とのco-occurrenceが統計学的に有意に観察されることを見出した。KRAS遺伝子の変異は肺癌患者では喫煙との関連が指摘されており、DHODH遺伝子変異による肺癌発症における喫煙の関連を今後検討する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
その後他病院での手術症例の検体収集に努めている。倫理申請などの手続きも変更が必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
今回の研究で、宮城県南部というある程度限定的な領域と想定していたが、想定以上にゲノム配列の多様性が観察されたことから、同様の探索を続ける意義は大きくないと想定される。一方でこれまで指摘されたことのないピリミジン代謝に関連する遺伝子多型が肺癌発症などに関与する可能性が得られたことから、DHODH遺伝子の機能解析と発がんに関連した研究を進める。具体的にはDHODH p.A347Tノックインマウスなどでの発がん実験などで今回の観察結果の確認は検討すべき重要な実験系と思われる。特に、このノックインマウスとkras活性化型トランスジェニックマウスやTrp53欠損マウスと掛け合わせることでの造腫瘍効果の増強などを検討することで、生殖細胞変異と他遺伝子体細胞変異とが組み合わさって発癌に至る可能性を追究したい。KRASについては実臨床でもDHODHの欠失とのco-occurrenceが報告されており、重要な実験と考えている。また、UK BiobankやTMMコホートのような前向きゲノムコホートデータは、DHODH遺伝子の変異体が肺がん発生に寄与している可能性、特に同遺伝子の変異がNSCLCの発生を引き起こす際に関連する環境曝露について、より包括的な証拠を提供することが期待される。今後はこのような動物実験を実施する前の、培養細胞系による類似の解析を実施し、細胞増殖能や細胞分化能、アポトーシス耐性化などの細胞生物学的解析を実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新規検体の入手手続きなどに時間がかかり、十分な細胞生物学的実験を組むことができなかった。今後分子生物学的試薬(プラスミド生成など)で約80万、細胞生物学的試薬(培地、トランスフェクション試薬など)で110万円、一般消耗品(フラスコ、ピペットマン、シリンジなど)で約30万円の執行を予定している。
|