ヒトの固形腫瘍局所には活性化制御性T細胞が多く浸潤し、がんに対する免疫応答を抑制していることが知られている。我々の研究室では、腫瘍環境下の制御性T細胞におけるPD-1発現が、制御性T細胞の機能の抑制に関わること、免疫チェックポイント阻害薬によってその抑制が解除されることを明らかにした。本研究では、制御性T細胞のシングルセルレベルのオープンクロマチン解析とトランスクリプトーム解析を実施することで、腫瘍環境下の制御性T細胞の機能の変遷を解析することで将来的に新規のがん免疫療法の効果予測マーカーや制御性T細胞を標的とした免疫療法の開発を目指した。末梢血中、正常部位、肺がんおよび胃がん中の制御性T細胞のシングルセルRNA-seq、シングルセルATAC-seqの統合的な情報解析を通じて制御性T細胞の活性化に重要な転写因子を抽出した。その中の転写因子BATFの機能解析を進めた結果、腫瘍に浸潤している制御性T細胞の分化を促進する重要な転写因子であることを明らかにした。この成果についてはScience Immunology誌にて発表した (PMID: 36206353)。シングルセルの統合的解析ではサブタイプ間の発現パターンが近い影響または細胞数が限定的な影響のためクロマチン分化と遺伝子発現パターンの変化を結びつけることは困難あったため、本年度では一細胞内で同時にATAC-seq、RNA-seqを実施するシングルセルマルチオーム解析について条件検討を進めた。現在までに肺がん浸潤制御性T細胞の2例についてデータを取得することができた。現在はライブラリー作製時の中間産物からTCRのvdj領域を増幅することで、シングルセルTCR-seqの条件検討を進めている。以上によって腫瘍局所の制御性T細胞のクローン単位での追跡、またがん抗源との関係について明らかにすることを目指している。
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