研究実績の概要 |
がんの薬物療法は、正常細胞への悪影響が少なく効果的にがん細胞の増殖を抑制するものが理想的である。私たちは以前、MyD88の機能阻害が腸管正常細胞の増殖には大きく影響せずにWnt経路に変異を持つ大腸腫瘍細胞の増殖を抑制することを明らかにした。しかし、その効果はKras変異があると低下することから、本研究では、Kras変異の影響を打ち消す標的因子の候補を得ることを目的とした。 まず、タモキシフェン(Tam)誘導型Ctnnb1変異マウスとCtnnb1; Kras複合変異マウスの大腸正常組織から大腸正常オルガノイドを作製し、in vitroでTam処理によりC(Wnt経路活性化変異)オルガノイドとCK(Wnt経路活性化変異+Kras活性化変異)オルガノイドを作製した。CとCKオルガノイドでMyD88阻害剤処理により発現が変動する遺伝子をRNA-seq解析により探索し、標的因子の候補を挙げた。続いて、ヒト検体の各種データベースの情報を元に候補因子を絞り込み、そのうち3つの因子の解析を進めた。マウス腸管腫瘍由来のオルガノイド培養や二次元培養、ヒト大腸がん細胞において発現を抑制したところ、1つの因子は増殖への影響が顕著に見られ、もう1つの因子は弱く見られた。個体レベルでの検討では、大腸がん初期のマウスモデルであるApc変異マウスを用いた。検討に必要なMA-CreとMAK-Cre (M: Tam誘導型MyD88変異, A: Apc変異, K: Tam誘導型Kras活性化変異, Cre:Villin-CreERT2) 複合変異マウスを作出したが、候補因子の機能阻害による腸管腫瘍の抑制効果については結論づける十分なデータを得られていない。さらに研究を進め、腫瘍細胞の増殖を抑制し、かつ正常細胞への悪影響が少ない標的因子を同定することにより、大腸がん治療戦略を開発する基盤につながると考える。
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