研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体内機能が解明されていないチロシンキナーゼファミリーであるPTK6ファミリーキナーゼの生理機能とその破綻による病態形成機構を明らかにすることである。非受容体型チロシンキナーゼのサブファミリーの1つであるPTK6ファミリーキナーゼ(PFK)は、系統樹上でSRCファミリーキナーゼ(SFK)に最も近く分類されるものの、SFKからは独立した固有のファミリーを形成しており、その生理学的・病態生理学的機能は未だ不明である。そこで本研究ではマウス受精卵を用いたCRISPR/Casゲノム編集により3つのPFK(Ptk6、Srms、Frk)を同時に欠損させたPFK三重欠損マウス作製して解析を行った。その結果、PFK三重欠損マウスは小腸の最末端部である回腸において幹細胞集団の減少や放射線照射からの回復不全に特徴づけられる腸上皮恒常性の異常を示した。RNA-seq解析ならびにメタゲノム解析の結果、このマウスの回腸ではIL-22/STAT3シグナルによる粘膜免疫応答の活性化と腸内細菌叢の異常が認められた。さらに系統学的解析の結果、初期の脊椎動物の進化の過程において共通祖先遺伝子からPFKが分化した直後のタイミングで消化管に回腸と粘膜免疫システムが出現していることがわかった。以上のことから、遺伝子(=PFK)と器官(=回腸)の共進化を介して、高等脊椎動物における栄養吸収や粘膜免疫にきわめて重要な役割を担う回腸機能の頑健性(robustness)が獲得された可能性が本研究によって明らかとなった。以上の本研究の研究成果をまとめた論文発表(Kikuchi et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2023)を行った。
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