研究課題/領域番号 |
21K07121
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 真司 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (20572324)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | GREB1 / 神経芽腫 / アンチセンス核酸 |
研究実績の概要 |
本研究では、「GREB1による神経芽腫の転写調節プログラムの全容を解明し、GREB1の神経芽腫発がんにおける生物学的役割を明らかにすること」を目的とし、2021年度は以下の研究成果を得た。 研究計画「1. GREB1の神経芽腫における発現と臨床的悪性度との関係についての解析」について、免疫組織学的にGREB1の発現を検討したところ、34症例中27例、約79%でGREB1が腫瘍特異的に過剰発現していた。また、データベースを用いた解析から、GREB1の発現は神経芽腫の予後不良と相関した。研究計画「2. GREB1の神経芽腫における増殖制御機構の解析」について、神経芽腫細胞は、転写制御機構にもとづく分類から、神経様のADRN(adrenergic)型と分化度の低いMES(mesenchymal)型に分類される。ADRN型は悪性度の高い神経芽腫、MES型は発生母地の正常神経堤細胞に近い発現プロファイルを有する。典型的なADRN型細胞であるSKNDZにおいて、GREB1を発現抑制したところ、細胞形態が突起を有する神経様から扁平な神経堤上皮様に変化した。RNAseqで網羅的に遺伝子発現を解析したところ、GREB1の発現抑制によってADRN型のマーカー遺伝子群の発現が低下し、MES型のマーカー遺伝子群の発現が増加した。研究計画「5. GREB1のアンチセンス核酸が神経芽腫の形成に与える影響の検討」について、神経芽腫細胞CHP212、SKNDZ、IMR32において、2種類のASOによってGREB1の発現を抑制したところ、いずれの細胞においても細胞増殖が強く抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画「1. GREB1の神経芽腫における発現と臨床的悪性度との関係についての解析」について、臨床検体を用いた発現解析をすすめ、GREB1が80%近い高頻度で過剰発現していることを見出した。臨床的悪性度との関係を詳細に明らかにするために、現在症例数を増やして解析を進めている。神経芽腫細胞は、転写制御機構にもとづく分類から、悪性度が高い異常分化した神経芽腫様のADRN型と、発生母地の神経堤に近い分化度の低いMES型に分類される。研究計画「2. GREB1の神経芽腫における増殖制御機構の解析」について、RNA-seq解析によって、GREB1の発現抑制によってADRN型からMES型へと遺伝子発現型が変化して細胞増殖能が低下することが明らかになった。本結果から、GREB1が神経芽腫の異常分化に関与する可能性が示唆された。現在、発現変動した遺伝子群の上流制御転写因子を解析している。研究計画「5. GREB1のアンチセンス核酸が神経芽腫の形成に与える影響の検討」については、複数の神経芽腫細胞株のin vitroでの細胞増殖を抑制するGREB1に対するアンチセンス核酸(ASO)を取得できた。21年度の成果をもとに、研究計画「3. 同定したGREB1による転写調節プログラムの神経芽腫発がんにおける機能解析」と研究計画「4. GREB1の発現制御機構の解析」についても現在研究を進めており、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画1については、症例数を増やして解析を進める。また、MYCNの発現と遺伝子増幅について免疫染色およびFISHで解析し、GREB1の発現との相関について明らかにする。研究計画2について、神経芽腫細胞におけるGREB1による転写調節プログラムの全容を明らかにするために、GREB1抗体を用いたChIP-seq解析を行ったところ、これまで報告されている乳がんや肝芽腫での分子性質とは異なり、GREB1のDNAへの結合がほとんど検出されなかった。当初の想定とは異なり、神経芽腫細胞ではGREB1がDNAへの結合には依存せず転写を制御する可能性が新たに示唆された。そこで、その作用機構を解明するために、GREB1の神経芽腫細胞での新規相互作用因子の同定を行う。RNA-seqの上流転写因子予測解析の結果を踏まえ、GREB1による神経芽腫の異常分化の制御機構を明らかにする。 研究計画3および4については、MYCNによるGREB1発現制御機構とGREB1のMYCN依存的遺伝子発現への影響について、検討を進める。研究計画5については、これまでに取得しているGREB1 ASOのin vivoの神経芽腫腫瘍形成に対する抗腫瘍効果について解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画2について、神経芽腫細胞におけるGREB1による転写調節プログラムの全容を明らかにするために、GREB1抗体を用いたChIP-seq解析を行ったところ、これまで報告されている乳がんや肝芽腫での分子性質とは異なり、GREB1のDNAへの結合がほとんど検出されなかった。当初の想定とは異なり、神経芽腫細胞ではGREB1がDNAへの結合には依存せず転写を制御する可能性が新たに示唆された。そこで、その作用機構を解明するために、GREB1の神経芽腫細胞での新規相互作用因子の同定を行う必要性が生じたため。200kDaを超える大きなGREB1遺伝子の結合タンパク質の同定はその分解しやすい特性から、通常の免疫沈降法では成功しなかった。そこで近年注目されているTurboIDを用いた近接依存性標識法 (proximity labeling, PL)による相互作用タンパク質の同定を行い、質量分析にて網羅的に相互作用タンパク質の同定を行う。
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