研究課題/領域番号 |
21K07122
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藪田 紀一 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (10343245)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | がん悪性化 / 液-液相分離 / LATS / キナーゼ / Hippo経路 / 核小体 / DNA損傷 / リン酸化 |
研究実績の概要 |
がんを含む複数の疾病発症に関連する液-液相分離(LLPS)現象は、高分子の相分離凝集で起こるとされ、核小体や核スペックルなどの非膜性の細胞内小器官および構造体(MLOs: membraneless organelles)の形成や維持などに重要な役割を担うと考えられている。我々はこれまでに、核小体構成因子であるPHF6がLATS2キナーゼの新規のリン酸化標的であることを見出した。本研究では、UV照射におけるDNA損傷後にLATS2やPHF6を含むリン酸化標的タンパク質群が核小体などのMLOsに集積する生理的意義とLLPSとの関係を明らかにし、がん悪性化におけるLLPSの新たな機能を解明することを目指す。本年度もほぼ計画どおり順調に実験が進み以下の研究成果を得た。(1)PHF6は核小体におけるrRNA合成(リボソームRNAの転写)に関与することが報告されているので、ゲノム編集によりLATS2を欠損させた子宮頸がん由来HeLa-S3細胞株(LATS2-KO)においてFUrdの取り込み実験を行ったところ、核小体および核質におけるFUrdの取り込みは阻害された。この結果は、LATS2の機能阻害がrRNAやmRNAの転写を抑制することを示唆している。(2)LATS2の全長あるいは断片化した部分欠失変異体を蛍光タンパク質GFPとの融合タンパク質としてHeLa-S3細胞に発現させたところ、全長LATS2は細胞質で無数の点状の局在を示す一方で、部分欠失変異体は核内で点状に分布し核スペックルと共局在した。これらの点状局在は、LLPS阻害剤で消失した。これらの結果は、LLPS現象の影響下でLATS2がPHF6の転写抑制能を制御している可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LATS2はHippoシグナル経路で働く中心的なキナーゼの一つであるが、我々はこれまでにLATS2が細胞周期チェックポイントにおいても機能していることを幾つか報告してきた。その過程において、UV照射に応答して核内で特異的にリン酸化されたLATS2、PHF6、p21/CDKN1の3者がいずれも部分的に核スペックルに局在することを見出した。また、PHF6は核小体におけるrRNAの転写抑制に寄与しているとされるので、FUrd取り込み実験を行いLATS2がPHF6を制御してrRNAおよびmRNAの転写抑制を制御している可能性を見出した。一方で、UV照射後のDNA損傷に応答してLATS2が細胞質でリン酸化したp21は自己分解が促進し、caspase依存的なアポトーシスを誘導することを報告しているので(Suzuki et al., 2013)、核内でリン酸化されたp21と核スペックルの関係も明らかにして成果をまとめていく。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究の目的を達成して、これまでの成果をまとめていくために、不足している実験を追加することを含めて研究計画どおり推進する。がん悪性化におけるLLPSの新たな機能を解明するために、LATS1/2キナーゼあるいはそのリン酸化標的因子群(PHF6やp21)が核小体や核スペックルのような非膜性細胞内小器官(MLOs)に集積する分子メカニズムとその生理的意義を明らかにしていく。具体的には、HeLa細胞以外のがん細胞株を使用した実験やp21の分解が誘導するアポトーシスへの影響などを調べる。また、本研究の成果をまとめた論文を学術専門誌に投稿する予定であるが、その審査後の改訂(リバイス)のために要求されるであろう必要不可欠な追加実験を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も、大きな実験の失敗なども無く、当初の計画どおりに実験を順調に進めることができた。実験の失敗などが少なかった分、無駄が少なかったため予定していたよりも支出を抑えることができたが、本研究の目的を精緻に達成するため、論文投稿に向けた追加実験や論文投稿後のリバイスで大量の実験を要求されることが今後予想されることから次年度への期間延長が必要となり、次年度使用額が生じた。
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