研究課題/領域番号 |
21K07124
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小渕 浩嗣 岡山大学, 医歯薬学域, 講師 (10304297)
|
研究分担者 |
藤田 洋史 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (20423288)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ABCトランスポーター / がん / 低分子二本鎖RNA / siRNA / 遺伝子発現抑制 / 細胞死 / 細胞増殖抑制 |
研究実績の概要 |
ATP-binding cassette transporter G2 (ABCG2)は、様々な薬剤や生理活性物質を体外に排出する生体バリア機能を担う輸送体である。代表者はABCG2機能阻害の手段として、siRNAによるABCG2遺伝子ノックダウンが、各種のがん細胞で増殖抑制や細胞死が誘導されることを見出し、その細胞死シグナル伝達機構やABCトランスポーターの新たな生理的意義を明らかにすることを目的としている。 初年度となる令和3年度は、種々のがん細胞株における各種ABCトランスポーターの発現抑制と細胞生存率の解析を中心に行った。この解析の目的は、ABCG2と同様に、siRNAによるタンパク質発現抑制によって細胞死を誘導するABCトランスポーターの存在を明らかにすることである。 ABCG2遺伝子の他に、ATP-binding cassette subfamily B Member 1(ABCB1,別名:P-Glycoprotein 1)、Multidrug resistance-associated protein 1(ABCC1)など、主として薬剤や生理活性物質を細胞外へ排出するABCトランスポーターについて検討した。各種siRNAの細胞内導入には市販トランスフェクション試薬を使用し、各遺伝子ノックダウン条件の最適化を行い、最も毒性の低い条件でノックダウンを施行した。膵臓がんをはじめ、様々な種類のヒトがん培養細胞株における各遺伝子ノックダウンによる影響は、それらの細胞生存率をMTT法により経時的に測定することで評価した。 結果として、ABCG2以外でも細胞生存率を有意に低下させるABCトランスポーター遺伝子の存在を認めた。その割合はABCG2遺伝子抑制と比較すると低いものであったが、何らかの共通点が存在する可能性も否定できない。この点については、今後の課題として解析を試みる予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請当初は、自家発光遺伝子を搭載したpCMVluxプラスミドベクター(490 BioTech社)を細胞に導入することで、通常、解析時に必要なルシフェリンなど基質に左右されない「恒常発光がん細胞」を各種のがん細胞から新たに作成し、それらを用いて実験する予定であった。しかし、当該プラスミドベクターやそれを導入した細胞も販売停止となったため、改めて細胞株の選定を行った。最終的には、In vivoイメージングで実績のあるルシフェラーゼ遺伝子を導入した膵臓がんをはじめとする細胞株を購入して各実験に供することとした。 がん種としては、膵臓がん、大腸がん、乳がんのルシフェラーゼ遺伝子導入細胞で検討したが、ABCG2だけでなく他のABCトランスポーター遺伝子のノックダウンによる細胞死が様々ながん細胞株で確認された。よって、計画にはないが今後の研究を遂行する上で重要な問題と考えられたことから、ルシフェラーゼ遺伝子の有無に関係なく、既存の様々ながん細胞株におけるABCトランスポーター遺伝子抑制による細胞生存への影響を検討した。この解析には時間を要したが、結果は今後の研究に資するものである。しかし、当初の項目である「細胞死シグナル伝達経路の解析」の実験がやや遅れている。 計画がやや遅れているもう1つの理由として、教室に所属していた博士課程留学生の博士論文(異なる研究課題)の研究が進んでなかったことから、指導者として、その博士課程留学生の研究に時間を割く必要があったことも挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した膵臓がんなど数種のがん細胞におけるABCG2遺伝子のノックダウンによる細胞死誘導メカニズムの解析を早急に進め、その解明を目指す予定である。 また、令和4年度での計画項目として挙げている低酸素誘導因子(HIF-1: hypoxia-inducible factor-1)について、低酸素培養キットを用いた解析を行い、ABCG2発現抑制によってHIF-1活性がどのような影響を受け、がん悪性化との関わりにどのような変化があるかを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」にも記載したが、申請書で予定していた自家発光遺伝子pCMVluxプラスミドベクターが販売停止となったため、この遺伝子を購入し、導入させた細胞を実験に利用できなくなったことが大きな理由である。pCMVluxプラスミドベクターは、非常に高価であるが、基質を不要とするためIn vivoイメージング実験に有利と考えられた。しかし、このベクターが入手不可となったため、ルシフェラーゼ導入がん細胞株を購入し、今後の研究で使用することとした。これらの細胞は、pCMVluxベクター導入細胞より比較的安価ではあるが、これまでのIn vivoイメージング実験において大きな実績のある細胞である。 今後は、計画が遅れている細胞死誘導シグナル伝達経路の解析や低酸素誘導因子の解析に必要な試薬および物品等を購入し、それぞれの解析を進める予定である。
|