研究課題
分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害治療によって肺癌の治療成績は改善したが、現在も肺がんはがんの死亡原因の一位であり、その発生機構は不明な点が多く残されており、その解明と新たな治療法の確立が求められている。BHLHE41はサーカディアンリズムの制御や細胞の分化などで働く抑制性の転写制御因子である。我々は手術検体177例の免疫組織染色の結果からBHLHE41タンパク質の発現は正常細胞、早期の非浸潤的肺がん細胞に限られており、BHLHE41の腫瘍での発現は患者の予後良好(P=0.00992)と相関があること、BHLHE41が肺がん細胞株にオートファジー細胞死を誘導することを見出した。これらのことからBHLHE41は肺がん発生の早期に不活化されるがん抑制分子とであると考えられる。BHLHE41のオートファジ細胞死誘導でのアポトーシスの抑制に注目した。アポトーシスに働くBAX遺伝子はTP53の安定化によって発現が誘導されることが以前に報告されている。野生型P53を持つ肺腺がん細胞においてBHLHE41の発現誘導によってTP53たんぱく質発現は上昇するが、BAXのmRNAとたんぱく質の発現が減少する矛盾する結果を見出した。変異型TP 53を発現している肺がん細胞株でもBHLHE41発現によるBAXの発現の減少は観察された。BHLHE41発現によるBAXの発現制御についてのBAX 5’UTRのルシフェラーゼ解析とCHIPアッセイからTP53とMYCがBAXの発現誘導に関わっていることBHLHE41はMYCに競合してBAXの発現を抑制していると考えられる結果を得ている。さらにBHLHE41が一部のMYCターゲット分子の発現を低下させる結果を得ており、BHLHE41はMYCターゲット分子の一部の発現を阻害する分子として機能していることが分かってきた。
3: やや遅れている
肺癌の in vitro誘導系の確立については報告者から提供を受けることができなかったため、ドライバー遺伝子として既存の報告をもとに当初予定していたRAS遺伝子よりも増殖の抑制の比較として阻害剤がすでに確立したのあるチロシンキナーゼ群を用いることに計画を一部変更したために時間を要している。また大学院の学生の卒業、実験室の異動などの研究環境の変化があった。
BHLHE41発現誘導におけるオートファジ―細胞死の機構の解析を引き続き優先して進める。アポトーシスの抑制とともにフェロトーシスとの関連についても検討を行う。また、MYCの阻害を介した腫瘍細胞を用いた腫瘍細胞増殖と腫瘍発生の抑制についても検討する。また、MYCのターゲットの遺伝子でBHLHE41により抑制されるものとされないものを区別するための網羅的発現解析を行う。
一部の研究を担当していた大学院学生の卒業や代表者の実験室の移動などの研究環境の変化により一部の実験に遅延が生じたことと、凍結サンプルの保存場所の移動もあり、計画していた凍結保存が必要な複数の細胞株の購入などが遅れて次年度使用が発生した。これらの実験環境は整ったので、次年度の早期に細胞株の購入を行うなど、補助金を計画的に使用する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件)
Planta Med.
巻: 88 ページ: 未定
10.1055/a-1978-8768.
Biochim Biophys Acta Gen Subj
巻: 1867 ページ: 130301-130315
10.1016/j.bbagen.2022.130301.
Int J Mol Sci.
巻: 23 ページ: 15986-15997
10.3390/ijms232415986.
Cancers
巻: 14 ページ: 5127-5141
10.3390/cancers14205127.
Transl Cancer Res.
巻: 11 ページ: 2040-2049
10.21037/tcr-22-39.