研究課題
申請者らは先行実験により慢性胃炎および胃がんで発現が亢進する長鎖non-coding RNA (lncRNA) TM4SF1AS1がストレス顆粒の形成促進とアポトーシスの抑制に関与することを明らかにしたが、その詳細なメカニズムは不明である。本研究はその分子機構を明らかにすることを目的としている。TM4SF1AS1の詳細な細胞内の局在情報を得るために、MS2タグを付加したTM4SF1AS1のTet-on遺伝子発現誘導系胃がん細胞株を樹立し、免疫蛍光染色を行った。ストレス顆粒マーカーであるTIA-1、G3BP1やG3BP2と共にTM4SF1AS1がその過剰発現によって形成された顆粒様構造に局在することが示された。また、TM4SF1AS1との相互作用が見られたRACK1は、MTK1の活性化からp38/JNKを介したアポトーシスを引き起こすが、ストレス顆粒はRACK1を顆粒内に隔離しアポトーシスを抑制することが知られる。TM4SF1AS1の過剰発現により形成されたストレス顆粒にRACK1が局在したことから、がん細胞におけるTM4SF1AS1によるストレス顆粒の機能として、生存に不利に働くタンパク質や転写産物を隔離しその機能の阻害や翻訳を抑制することが考えられた。そこでTM4SF1AS1と相互作用し翻訳抑制を受ける可能性のあるRNA分子の探索を、ChIRP RNA-seqにより試みた。結果585個の候補が得られ、その三分の一がmRNAに該当した。Gene Ontology解析を行った結果、アポトーシスに関連するmRNAがエンリッチしていた。一部のアポトーシス関連mRNAがTM4SF1AS1の標的となり翻訳抑制を受ける可能性があると考えられることから、さらなる解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
これまでRNA-FISHでは技術的な問題により得ることができなかったTM4SF1AS1の局在に関する示唆をMS2タギング法により得ることができた。また当初予定していたTM4SF1AS1と相互作用し得る多数のRNA分子を得ることができ、そこからさらにアポトーシスに関連するmRNAを絞り込むことができた。ChIRP RNA-seqの再現性について、ChIRP qRT-PCRを行い当該アポトーシス関連mRNAがエンリッチすることが確認された。以上より本研究はおおむね順調に進展しているものと考える。
ストレス顆粒形成は、翻訳開始因子eIF2αのリン酸化による翻訳開始とeIF4F複合体による翻訳開始を阻害することで引き起こされる2つの経路が知られる。TM4SF1AS1によるストレス顆粒の形成促進がいずれの翻訳開始制御に関連するか検証する。TM4SF1AS1と結合する可能性のあるアポトーシス遺伝子のmRNAについては、TM4SF1AS1がその翻訳レベルに影響を与えるのか検証する。その際に先行実験により同定したTM4SF1AS1の結合タンパク質には翻訳抑制因子が含まれるため、TM4SF1AS1と翻訳抑制因子によるアポトーシス遺伝子の翻訳制御との関連を明らかにしてゆく。
初年度はRNA-seqに供試するChIRPの実験系の最適化と結果の評価に時間がかかったため、試薬購入が少なく今年度の使用額が抑えられた。次年度の使用計画としては、現在進めている実験の試薬消耗品、論文投稿の際の追加実験等の試薬消耗品や投稿時に必要な諸経費に充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
Scientific Reports
巻: 11 ページ: 20438-20438
10.1038/s41598-021-99736-5