研究課題
本研究では、「加齢に伴う遺伝的変化が(上皮系のいわゆる「癌」のタネになる細胞種だけでなく)間質系の細胞にも生じているのではないか」「加齢性の遺伝的変化の生じた間質細胞が、一見正常に見える前がん病変の微小環境を形成しているのではないか」との着想から、臨床サンプルを用いた全エクソーム解析と培養モデル系によるメカニズム解析によって、これまで一定の見解を示すことのできていなかったがん関連間質細胞の遺伝的変化について明確な解答を導き出すことを目的とした。初年度(R3年度)では、研究計画に従い肺癌患者23検体、膵癌患者10検体(FFPE切片)を用いてエクソーム解析を行った。非腫瘍部の間質系組織をマイクロダイセクションで単離し、腫瘍部との体細胞変異を比較検討した。腫瘍部では、KRAS, TP53, PIK3CA, SMAD4などのドライバー変異が抽出された。一方、間質組織からも体細胞変異が抽出されたものの、いわゆる上記のようなドライバー変異は検出されず、VUS変異(variant of uncertain significance)と考えられた。現在このVUS変異についてさらなる解析を進めている。一方、がん間質だけでなくその個体における加齢性遺伝的変化の検出を目論み、cell free DNA(cfDNA)からの体細胞変異の抽出も行った。その際、ctDNA(circulating tumor DNA)を検出するようなdeep sequencingは行わず、通常のカバレッジ(x300-500)で解析することにより癌患者の正常細胞由来体細胞変異の検出を行えると予想のもと解析を行った。その結果、癌患者由来cfDNAだけでなく健常者由来cfDNAからもVUSを含む体細胞変異が抽出され(第62回日本肺癌学会学術集会にてポスター発表)、これらの変異とagingとの関係を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
患者検体(FFPE検体、cfDNA)の採取、保管管理、および検体からのgDNAの回収等のフローが構築済みであり、スムーズに研究を進行することができた。また、エクソーム解析においてもライブラリ調整およびデータ解析( がん変異抽出)についてもノウハウが蓄積している状態であったため、データ取得から解析結果を得るまでの時間を短縮できたことが要因と考えられる。
前年度で行った臨床検体からの解析結果を踏まえ、検体数を追加してさらに解析を進める。次年度では、加齢(aging)による変化が、組織内の老化(senescence)細胞の蓄積による個体・組織の老化と想定し、間質細胞における加齢性の遺伝子異常を擬似的に誘導するため、ヒト正常皮膚繊維芽細胞(NHDF, LONZA)にUV、放射線、化学物質を低照射、低濃度で持続的に処理する培養モデル系を構築する。予備実験において、NHDFに細胞老化を誘導しつつ継代維持可能なUV照射強度の条件を既に確認済みである。この老化誘導型NHDFのエクソーム解析の結果、UV照射による損傷と修復の繰り返しで生じたと考えられるゲノム上のvariantが確認されている。この遺伝子異常が蓄積されたNHDFと正常NHDFを腫瘍細胞株(メラノーマ由来など)と共培養してがん間質化を試みる。共培養系は直接接触型、カルチャーインサートを用いた非接触型を検討し、SASP(Senescence-associated secretory phenotype)やα-SMAの発現量・分泌量の変化を指標にがん間質化をモニタリングする。
研究成果について国内外の学会発表を予定していたが、年度内の学会はコロナ禍の影響でほとんどがオンライン開催であったため、計上していた「旅費」との差額が生じた。
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Cancer Sci.
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10.1111/cas.15309.