研究実績の概要 |
がん悪液質は、進行性の体重減少・骨格筋萎縮・食思不振を主徴とする複合的な代謝性症候群である。多くの進行がん患者が、悪液質を発症し、世界では年間900万人近くのがん患者が悪液質を発症している(Lok C., Nature, 2015)。がん悪液質はがん患者の約20%にとって直接死因であるとされる。紀元前の文献にも、悪液質に関する記録が残されているが、現在に至るまで、悪液質の本態は不明である。悪液質の主徴である骨格筋の萎縮は、患者のPerformance Status(PS)やQuality of Life (QOL) を著しく低下させる。PSが低下した患者では、標準的な抗がん治療からの脱落せざるえなくなる。実効性のある早期診断方法や治療介入法の開発が望まれている。がん悪液質モデルマウスを解析したところ、悪液質肝臓ではNAD(nicotinamide adenine dinucleotide)濃度が半減して、そしてNAD分解酵素であるCD38の発現が上昇することが特徴的であった。肝臓は、生体のNAD代謝の中心であり、全身にNADの前駆体であるニコチンアミドを提供している(Liu L. et al., 2018, Cell Metabolism)。CD38は生体のNAD分解系の主要酵素であるとされている。NAD前駆体を含むビタミンB製剤を投与したが、がん悪液質モデルマウスの生存期間は延長しなかった。CD38阻害剤Compound 78cはSEKIがん悪液質モデルマウスの肝臓および骨格筋重量を増加させることが示唆された。マウスがん悪液質モデルおよびヒト胃がん悪液質患者血液ではNAD前駆体であるトリプトファン濃度の低下を認めた。本研究成果はがん悪液質の代謝学的側面の解明に関して一定の貢献をすることが期待される。
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