圧縮ストレスは多くの固形がんで必然的に生じるストレスである一方、それががん細胞に与える影響はほとんどわかっていない。我々は細胞をコラーゲンゲル中で三次元的に培養し、その後ステンレスのおもりを載せることでゲルごと細胞を圧縮する実験系を確立した。本研究ではその実験系を用いて、圧縮された細胞において生じる遺伝子発現の変化および表現型の変化を解析した。圧縮された膵がん細胞ではIL-8の発現がMAPK経路依存的に増加することを見出した。また圧縮ストレスは膵がん細胞、肝がん細胞においてlncRNAであるNEAT1の発現を誘導することを発見した。圧縮ストレス依存的なNEAT1の発現上昇にはMYCの活性およびアクトミオシンの働きが重要であることを示唆するデータが得られている。加えて、圧縮ストレスが膵がん細胞の増殖を抑制することを見出した。圧縮ストレスにより細胞数の増加が抑えられるとともにKi67の発現量が減少することを確認した。また圧縮ストレスは膵がん細胞株のRbタンパク質のリン酸化を抑制することが分かった。そのため、圧縮ストレスは細胞周期のG1/S移行を抑制することで細胞分裂を阻害している可能性が示唆された。さらにがん関連線維芽細胞(CAF)のモデル細胞であるマウス由来の間葉系幹細胞を圧縮したところ、がん抑制性CAFのマーカーであるMeflinの発現が抑制されることを見出した。この結果は圧縮ストレスががん細胞のみならず、CAFにおいてもがん促進性の表現型をもたらすことを示唆している。以上の通り、圧縮ストレスががん細胞およびCAFに与える影響について検証を進めた。
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