研究課題
卵巣明細胞がんは多様性に富み治療抵抗性が高いため予後不良である。そのため、新たな治療方法の開発が求められている。私たちは卵巣明細胞がん細胞株に対するCas9スクリーニングにより、8回膜貫通タンパク質XPR1が卵巣がん細胞の増殖に必須であることを見出した。XPR1はリンの細胞外への排出を制御するタンパク質である。詳細な解析な結果、卵巣がん細胞において、siRNAによってXPR1の発現を抑制するとポトーシスによる細胞死が誘導され、顕著に増殖が抑制されることが明確になった。また、そのアポトーシスはp53の失活の有無にかかわらず誘導されることが明らかになった。さらに、XPR1の発現をshRNAによって恒常的に抑制した細胞を免疫不全マウスに移植すると、造腫瘍能の低下が認められた。1) XPR1の発現を抑制すると細胞内の無機リン酸量が増加すること、2) 遺伝子発現解析(RNA-seq)の結果、XPR1の発現を抑制した細胞では酸化ストレスが亢進していること、からXPR1の機能を阻害すると酸化ストレス依存的な細胞死が誘導されるものと考えられた。また、様々ながん腫におけるXPR1の発現量を比べたところ、卵巣がん、肺がんなど多くのがんで発現が亢進していることが明らかになった。これらの結果から、XPR1に対する治療薬が卵巣がんに対する新たな治療戦略になる可能性が期待された。上記の知見を論文としてまとめて報告した(Cancer Sci 2022)。
2: おおむね順調に進展している
XPR1が卵巣がんの増殖に必須であり、卵巣がんの治療標的として有望であることを論文にして報告することができた。また、様々ながん腫において正常組織とがん組織におけるXPR1の発現量を比較したところ、卵巣がん以外のがん腫(肺がん、膵がんなど)においてもがんでXPR1の発現が亢進していることが明らかとなり、卵巣がん以外のがん腫においても治療標的となる可能性を見出した。
本年度はXPR1が卵巣がんの増殖に必須であり、XPR1の機能を抑制するとアポトーシスが誘導されることを明確にした。しかし、そのアポトーシス誘導の分子機構については明らかになっていない。これまでに、XPR1の発現を抑制した卵巣がん細胞のRNA-seq解析により、p53経路、NFκB経路やRas経路が変化していることを見出しているので、XPR1の結合タンパク質を質量分析法により同定して、XPR1の発現抑制によるアポトーシス誘導の分子機構の解明を目指す。また、様々ながんにおいて、XPR1が有望な治療標的となる可能性を見出したので、XPR1の機能阻害が有効ながん細胞を選択するためのマーカー遺伝子を探索する。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Curr Issues Mol Biol.
巻: 44 ページ: 1587-1596
10.3390/cimb44040108
Cancer Science
巻: - ページ: -
10.1111/cas.15358