卵巣明細胞がんは多様性に富み治療抵抗性が高いため予後不良である。私たちは卵巣明細胞がん細胞株に対するCas9スクリーニングにより、リンの細胞外への排出を制御する8回膜貫通タンパク質XPR1が、がん細胞の増殖に必須であることを見出した。これまでに、卵巣明細胞がん細胞においてsiRNAによりXPR1の発現を抑制すると細胞死が誘導され顕著に増殖が抑制されること、さらに、XPR1の発現をshRNAによって恒常的に抑制したがん細胞を免疫不全マウスに移植すると、造腫瘍能の低下が認められることを明らかにしてきた。本研究では、XPR1の阻害による細胞死誘導の分子機構の解明を目指して、昨年度までに、XPR1を阻害すると細胞内のリン量が増加して酸化ストレスが亢進すること、NfKBシグナルが活性化することを見出している。本年度は、XPR1の発現を抑制した時のメタボローム解析を行った。XPR1の発現を抑制した時の卵巣明細胞がん細胞OVISEの細胞内における代謝産物の変化を網羅的に定量した。その結果、酸化ストレス応答に重要な特定のシグナル伝達経路の代謝産物が有意に増加することが明らかになった。また、XPR1に結合する新規のタンパク質を同定するための実験系の構築を進めた。今後、XPR1およびXPR1の結合タンパク質について分子的な解析を進めることで、がんのにおけるXPR1の機能、がんと細胞内のリンの恒常性の関係を解明し、卵巣明細胞がんに対する新しいがん治療戦略の提示につなげたい。
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