研究課題
性ホルモンの受容体は、転写因子として様々な遺伝子の転写を制御する。性ホルモン刺激後の転写応答時には、標的遺伝子の転写制御配列(プロモーターとエンハンサー)でゲノム切断がDNA topoisomerase II(TOP2)依存的にしばしば発生する。細胞がこのゲノム切断を効率よく再結合できないと、性ホルモン刺激後の転写応答が大きく変わる。本研究の目的は、ゲノム切断の修復と早期転写応答とのクロストークの分子メカニズムを明らかにすることである。本年度は、昨年度に続き、ゲノム切断修復酵素が欠損した時の、外的刺激への転写応答変化を全ゲノムで解析した。具体的には、男性ホルモンであるアンドロゲンに暴露した前立腺癌細胞(LNCaP、男性ホルモン受容体陽性)の早期転写応答を解析した。昨年度は、難治性のゲノム切断が蓄積する変異体(TDP2)では、野生型細胞と比べ、c-MYCなどの発癌遺伝子の早期転写応答が亢進することを見出した。本年度は、それら早期転写応答と相関するエンハンサーを同定した。研究期間全体を通じて実施した研究により、TDP2と同様にゲノム切断の修復が異常になるATMやBRCA1/2の変異の保因者が前立腺癌を起こしやすい原因の一つが、アンドロゲン暴露時のエンハンサーの異常による発癌遺伝子の異常な転写応答である可能性が推察された。得られた成果は、ATM、BRCA1、BRCA2などのDNA損傷修復遺伝子の変異の保因者が、乳癌や卵巣癌、前立腺癌を発症しやすいか、その問いに答える分子メカニズムを解明するための基盤になる。
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NAR Cancer
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