研究課題/領域番号 |
21K07153
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
水野 晋一 九州大学, 医学研究院, 教授 (40569430)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | クローン造血 / 腫瘍発生 / 免疫監視 |
研究実績の概要 |
クローン造血(CH: clonal hematopoiesis)は、遺伝子変異の起きた造血幹細胞がクローン性に増殖する病態であり、クローン造血から分化した異常マクロファージによる心血管疾患の高いリスク上昇が問題となっている。一方、腫瘍でもCHが観察されており、CHに由来する異常マクロファージを含めた免疫細胞が腫瘍微小環境に影響し、腫瘍の発生・進展に関与することが推測される。本研究では、(1)腫瘍の発生・進展に与えるCHの影響をマウスモデルで解明し、(2)遺伝子変異や特異的な遺伝子発現を標的としたCHの免疫学的制御法を開発することを目的としている。本年度は、CHモデルマウスの作成として、純化したマウス造血幹細胞にgRNA配列を含むCRISPR-Cas9レンチウイルスによりCRISPR-Cas9を導入し、ゲノム編集を行った造血幹細胞の骨髄移植によりCHモデルマウスの作成を行った。また、CHは加齢にともない急速に頻度が上がることから発症に免疫監視(immune surveillance)の影響が推測されるため、CHの発生機序の探索として、免疫不全マウスにおけるCH誘導を検討した。近交系マウスでは老齢においてもCHは認められないが、IL2Rg・Rag2ノックアウトマウスにNOD-SIRP1aを導入した高度免疫不全マウスであるBRGSマウスでは加齢により一部に血液異常がみられ、次世代シーケンサーでエキソーム解析を行なうことで頻度は低いもののSNVやdelの検出を観察しておりCH発症が誘導されている可能性がみとめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、CHモデルマウスの作成および免疫不全マウスにおけるCH誘導を検討した。CHモデルマウスの作成については、マウス造血幹細胞にgRNA配列を含むCRISPR-Cas9レンチウイルスによりCRISPR-Cas9を導入し、Tet2遺伝子のゲノム編集を行った造血幹細胞の骨髄移植によりCHモデルマウスの作成を行った。免疫不全マウスにおけるCH誘導の探索については、IL2Rg・Rag2ノックアウトマウスにNOD-SIRP1aを導入した高度免疫不全マウスであるBRGSマウスの末梢血を次世代シーケンサーで解析を行った。対象としてヒトCHで報告されている 25のCHIP関連遺伝子のキャプチャーライブラリーを遺伝子解析することにより、加齢マウスの一部においてVAF2%未満であるがTet2やDnmt3aにおいてSNVやdelを複数検出しており、CHが発症している可能性を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として、作成したモデルマウスにより腫瘍の発生・進展に与えるCHの影響を検討する。C57BL/6系統におけるB16F10、およびBALB/c系統におけるCT26を同系腫瘍として使用し接種後の腫瘍進展におけるCH腫瘍微小環境の影響を調べるとともに、免疫チェックポイント阻害薬(PD-1抗体)へのCHの影響を検討する。特に、腫瘍微小環境におけるマクロファージの役割に注目して研究を進める予定である。また、免疫不全マウスであるBRGSマウスの末梢血において、加齢マウスの一部でCHが誘導されている可能性を見出しており、クローン造血細胞の免疫監視からの逸脱機構を検討し、CHの免疫学的制御法の開発に進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究において、免疫不全マウスにおけるCH誘導の探索の研究の進捗状況が予定よりスムーズであり当初予定していた実験回数より少なく達成でき、その差額が次年度使用額が「0」より大きい理由となった。次年度は貴助成金を、モデルマウス解析の研究に対してより重点的に使用して研究目的を進める予定である。
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