研究課題
クローン造血(CH: clonal hematopoiesis)は、遺伝子変異の起きた造血幹細胞がクローン性に増殖する病態であり、様々な疾患に関与することが知られてきているが、特にクローンから増殖・分化した遺伝子変異を有するマクロファージによる心血管疾患のリスク上昇が問題となっている。また腫瘍の発生や進展において、CHに由来するマクロファージを含めた免疫細胞が腫瘍微小環境に影響し、腫瘍の発生・進展に関与することが推測されている。本研究では、(1)腫瘍の発生・進展に与えるCHの影響を細胞および個体レベル(マウス)で解析し、(2) 遺伝子変異や特異的な遺伝子発現を標的としたCHの免疫学的制御法を開発することを目的としている。昨年度、CHのモデルマウスの作成として、純化したマウス造血幹細胞にgRNA配列を含むCRISPR-Cas9レンチウイルスによりCRISPR-Cas9を導入し、ゲノム編集を行った造血幹細胞の骨髄移植によりCHモデルマウスの作成を行った。さらに、CHの発症機序への免疫監視(immune surveillance)からの逸脱の影響を解析するため、免疫不全マウスにおけるCHについて検討し、高度免疫不全マウスであるBRGSマウスでは加齢により一部に血液異常がみられ、頻度は低いもののSNVや delの検出を観察した。本年度は、作成したモデルマウスに同系腫瘍細胞株を接種し、腫瘍進展への影響を検討している。また、腫瘍免疫との相互関連を解析するため、同時にHLA分子制御のため、HLAおよびB2MG遺伝子に対するCRISPR-Cas9ベクターを作成している。
3: やや遅れている
本年度は、CH関連遺伝子であるTet2遺伝子に対するゲノム編集を行った造血幹細胞の骨髄移植によりCHモデルマウスを作成し、作成したマウスに同系の腫瘍細胞株(BALB/c系統と同系細胞株である CT26)を接種することで腫瘍進展への影響を検討した。同時に、CHにおけるネオアンチゲンに対する腫瘍免疫との相互関連の機序を解析するため、CH関連遺伝子に加えて抗原提示を行うHLA分子を制御するべく、HLAおよびb2MG遺伝子に対するCRISPR-Cas9レンチウイルス導入ベクターを作成することとした。現時点において、HLA分子の制御のためのHLAおよびb2MG遺伝子に対するCRISPR-Cas9ベクターは完成しているが、一方でモデルマウスの実験において接種細胞株の腫瘍進展への明らかな影響は観察されておらず、腫瘍細胞株の接種細胞数、接種条件や観察期間について検討を行なっている。
今後の研究方針として、引き続き作成したモデルマウスの腫瘍の発生・進展に与えるCHの影響を検討する。BALB/c系統における同系腫瘍である CT26の接種実験において、現時点では明らかな腫瘍進展への影響はみられておらず、本年度はさらに腫瘍細胞株の接種細胞数、接種条件や観察期間について検討を行なっていく方針である。同時に、CH腫瘍微小環境の影響を解析するため、CH関連遺伝子あるいはHLA遺伝子をゲノム編集した免疫細胞を作成して、細胞レベルでの正常からの遺伝子および機能変化を明らかにしていく予定である。一方、免疫不全マウスであるBRGSマウスの末梢血において、加齢 マウスの一部でCHが誘導されている可能性から、CHの免疫学的制御法について検討を進める。
本年度の研究において、特に前半において大学としての新型コロナウイルスへの対応の比重が高まったことから研究へのエフォートが一時的に減少し、そのため動物実験における観察を主としたため、使用予定であった消耗品など研究費の使用が大幅に減少した。このことにより、研究費の次年度使用が生じたが、現在は感染症への対応も正常に復し、研究へのエフォートも予定した割合に戻せており、次年度は貴助成金を、CHモデルマウス解析および腫瘍微小環境の研究に重点的に使用して研究目的を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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