研究課題/領域番号 |
21K07161
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
角田 俊之 福岡大学, 医学部, 准教授 (70444817)
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研究分担者 |
白澤 専二 福岡大学, 医学部, 教授 (10253535)
青木 光希子 福岡大学, 医学部, 講師 (80469379)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | PMC / KRAS / マクロファージ / TAM / KDELR / BiP / VDAC / PMCD |
研究実績の概要 |
我々は、KRASの変異以外は同じ遺伝子背景の細胞株を用いて3次元培養を行い、癌及び正常モデルを樹立し、癌モデルのみに効果を示し、マウスにおいて低毒性かつ抗腫瘍効果を示す化合物Pyra-Metho-Carnil(PMC,旧名称STAR2)を同定した。この化合物は、変異KRAS陽性癌、EGFR、BRAFなどの変異KRAS関連シグナルに位置する遺伝子の変異を有する癌細胞株及び薬剤耐性株にも効果を示した。PMCのVDACおよびKDELRの制御による抗腫瘍効果に加えて、マクロファージの活性化などの自然免疫賦活作用が示唆された。我々はヒト急性単球性白血病由来の単球モデルであるTHP-1細胞株を用いた腫瘍塊との共培養システムを構築した。すると、THP-1にPMA(+LPS)刺激で活性化したマクロファージは変異KRAS陽性の腫瘍塊に浸潤し、野生型KRAS陽性の腫瘍塊には浸潤しないことが判明した。さらにTHP-1刺激時にはM2-like(腫瘍増殖型)マクロファージとなるが、刺激と同時にPMCを投与すると、その浸潤が抑制され、M1-like (腫瘍抑制型) マクロファージになることが判明した。このマクロファージをPMC投与下で培養した細胞塊と共培養すると、さらなる抗腫瘍効果が認められた。以上のことより、PMCには直接の抗腫瘍効果以外に、腫瘍免疫微少環境に対する効果も有することが判明した。本年度は特にTHP-1のPMA刺激下において発現変動する遺伝子がPMCによってどのように影響を受けるかをRNA-seqによって解析し、得られたdataによるontology解析では、PMC投与によるミトコンドリアにおけるtRNA合成経路の活性化やmicroRNA経路の活性化など、これまでに予期していなかったPMCの働きを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PMCは、変異KRAS陽性癌、EGFR、BRAFなどの変異KRAS関連シグナルに位置する遺伝子の変異を有する癌細胞株及び薬剤耐性株にも効果を示した。PMCの標的は、ゴルジ-小胞体に存在しタンパク質輸送に関するKDELRとミトコンドリア外膜に存在するVDACの2つであると判明。正常細胞ではKDELRはシャペロン分子であるGRP78/BIPのC末のKDEL (Lys-Asp-Glu-Leu)配列と結合することによって、異常タンパク質の除去に関与していると考えられる。VDACはATP産生において重要なミトコンドリアの外膜にあり、多くの分子のミトコンドリアへの流出入に関与し、エネルギーの産生において必要である。一方、癌細胞はストレス環境でも生存が可能であり、KDELRは活性化することにより、ストレスに適応するためにより多くの異常蛋白質を除去している。そのようなストレス環境ではミトコンドリアの機能は抑制され、ATPはHIF-1が制御する解糖系によって産生され (ワールブルグ効果)、ミトコンドリアの抑制はアポトーシスの抑制にもつながっている。結果として癌には共通してストレス適応機構が備わっており、この機構の中核をKDELRおよびVDACが担っている。よって癌ではKDELRおよびVDAC機能の制御は癌のストレス適応を抑制し、アポトーシスへ誘導すると考えられる。PMCの基本構造内の炭素の一部を窒素置換した化合物を作製したところ、よりKDELRへの親和性が向上し毒性が軽減する分子の合成に成功し、PMC derivative (PMCD)と命名した。よってPMCDは低濃度ではKDELRが関連するストレス適応を阻害し、高濃度ではVDACが関与するストレス適応を阻害しアポトーシスを誘導していることが示唆された。このように、直接の抗腫瘍効果に関してはかなりメカニズムの詳細が判明した。
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今後の研究の推進方策 |
PMCの標的が癌では主にKDELRであり、この制御によるBiPのシャペロン機能の崩壊により腫瘍特異的にアポトーシスを誘導すると同時にBiPの膜への発現や分泌による免疫賦活効果ではないかという事が概ね判明してきた。しかし免疫担当細胞ではPMCの標的がKDELR以外にもVDACにも強く作用する可能性もある。PMC派生物(PMCD)はよりKDELRに親和性高く、PMCとの比較により作用点の違いを判明させる。THP-1と癌モデル、正常モデルとの共培養系を用いることで、そのあたりが判明すると考えられる。 また、ヌードマウスの系も並行して行っており、組織切片を用いた解析も進める。 以上により、PMCの直接的または間接的な抗腫瘍効果の解明を進め、低毒性抗腫瘍化合物PMCの臨床応用へと発展させる。
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