昨年度は,MT-SP1 siRNAの検定をおこない,2種類のMT-SP1 siRNAが使用可能である事を示し,MT-SP1の抑制により細胞運動能が制御されている事を示唆する結果を得た。 また,CDCP1の2量体形成部位の検討のためにCDCP1変異体を作成し,免疫沈降によりCDCP1のN末端側の220アミノ酸の領域が2量体形成を促進する可能性を示唆する結果を得た。 本年度は,MT-SP1によるCDCP1切断を介した細胞運動能の制御機構を調べるべく,CDCP1の2量体形成が関与するSrc型キナーゼの活性化に関して検討をおこなった。結果,MT-SP1の発現を抑制するとCDCP1の切断が抑制されると共に,Src型キナーゼの活性化も抑制される可能性が示唆された。Src型キナーゼの活性を阻害剤で抑制すると肺がん細胞株A549の細胞運動能が抑制された事から,CDCP1のMT-SP1に寄る切断がSrc型キナーゼの活性を制御して,細胞運動能に関与する事が示唆された。昨年度のCDCP1変異体を用いた免疫沈降の結果と合わせて考えると,MT-SP1により切断されたCDCP1は,N末端側の放出により2量体形成が促進され,その結果,Src型キナーゼの活性が起こって細胞運動能を制御していると考えられた。 これまでの研究結果から,CDCP1を介した癌転移機構,特に細胞運動において,膜型セリンプロテアーゼMT-SP1によるCDCP1切断が、CDCP1の多量体形成を促進してSrc型キナーゼの活性化をおこない,それがこれまで報告してきたCDCP1-PKCdeltaシグナルの制御に関与している事が明らかとなった。よって、これまで細胞内のCDCP1-PKCdeltaシグナル遮断による癌転移治療法の開発に加えて,MT-SP1によるCDCP1の細胞外ドメインの切断を阻害する治療薬開発も有用である可能性が示唆された。
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