血小板には外部と交通している開放小管が存在し、外部の物質を取り込み、活性化によりそれらを放出する機能が備わっている。これを利用し、血小板に治療薬を内包させ、それを担癌個体に投与すると、がん組織内で血小板が治療薬を放出して選択的に薬剤を作用させることができると仮説を立て、ラット肝がんモデルにおいてその治療効果を実証することを本研究の目的とした。 Solt-Farber法により誘導した肝がんラットの血液を採取し、そこから分離した血小板に蛍光色素CMRAを加えて標識し、宿主ラットに静脈内投与した。投与から24時間後に末梢血と肝組織を採取し、その動態を蛍光顕微鏡下で解析した。また、分離した血小板にソラフェニブあるいはレンバチニブを内包させ、宿主に投与する処置を週2回、10週間繰り返した。これらの治療の比較対象として、同量のソラフェニブあるいはレンバチニブ、溶媒、血小板のみを投与する処置も行った。治療期間中は、2週間おきに腹部エコー検査を行い、肝内の腫瘍を観察し、エンドポイントにおいて組織を採取して病理組織学的な解析を行った。 CMRAで標識された血小板は、末梢血や肝腫瘍組織内に観察されたが、正常な肝組織には観察されなかった。治療期間中の腹部エコー検査において、ソラフェニブやレンバチニブを内包した血小板で治療を行った個体の肝腫瘍組織の内部に、低エコー領域が検出されたが、その他の処置を行った実験群では観察されなかった。病理組織標本中では、ソラフェニブやレンバチニブを内包した血小板で治療を行ったラットの肝腫瘍組織内に広範囲の壊死、Cleaved caspase-3陽性細胞が観察されたが、その他の処置を行った実験群では観察されなかった。 これらの解析結果から、担がん個体から採取した血小板に薬剤を内包させて投与すると、効率的に抗腫瘍効果を発揮させられることが明らかとなった。
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