肺癌は世界的に見ても死亡率の高いがんの一つであり、特にEGFR遺伝子に変異があるタイプの肺癌(EGFR肺癌)は、新しい治療法の開発が急がれている。オシメルチニブは、このEGFR肺癌を対象とした第3世代の治療薬であり、特に脳への転移を持つ患者に有効であるが、治療開始から1~2年で薬剤耐性が発生することが大きな問題である。本研究では、オシメルチニブに対する耐性機構の解明と、耐性を克服するための新たな治療戦略の開発を目指している。我々はヒトのEGFR肺癌細胞株を用いて、マウス髄腔移植モデルを作成した。オシメルチニブに耐性化させた腫瘍細胞を次世代ゲノムシーケンサー(NGS)で遺伝子解析を行った結果、ARID1A遺伝子の変異が耐性化に関与していることを発見した。ARID1A遺伝子をノックアウトした細胞株は耐性を示し、逆に野生型のARID1A遺伝子を導入した細胞株では、薬剤感受性が回復したことから、ARID1Aの発現がオシメルチニブ耐性と直接関連していることが示唆された。次に、CRISPR-Cas9を用いたノックアウトスクリーニングにより、遺伝子Aが耐性株において重要な標的であることを特定した。この遺伝子を標的とする阻害薬は、耐性細胞でのアポトーシス(細胞死)を効果的に誘導した。臨床解析においても、ARID1A変異を持つ患者は野生型よりも治療効果が低下することが確認され、この遺伝子変異がオシメルチニブの治療効果を予測する新たなバイオマーカーとして有効であることが示された。本研究は、ARID1A遺伝子の変異がオシメルチニブの効果を左右する重要な要因であることを示し、その耐性を克服する新しい治療法の可能性を見出した。今後は、in vivoマウスモデルでの治療実験を行い、実臨床への応用を目指していく。
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