治療誘導性”老化”がん細胞を標的とする新規発想に基づくがん根治療法の確立

2023 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 21K07177
• 研究機関: 島根大学
• 研究代表者: 原田 守 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (50260716)
• 研究期間 (年度): 2021-04-01 – 2024-03-31
• キーワード: がん細胞 / 細胞死 / 細胞老化 / 老化細胞除去薬

研究実績の概要

化学療法の基本はがん細胞に細胞死（アポトーシス）を誘導することであるが、がん細胞死は細胞死を促進する分子と抑制する分子による相互制御に依存している。一方、膵がんに対する化学療法として最も使用されているのが gemcitabine (GEM) であるが、GEM の細胞殺傷作用は低く、細部増殖停止が主な作用と考えられる。抗がん剤でDNA損傷を生じたがん細胞は老化がん細胞として増殖を停止するとともに炎症性サイトカインなどを産生するsenescence-associated secretary phenotype (SASP)をいう表現型を獲得し、がんの再発に関与していると考えられている。そして最近、細胞死に関与するBcl-2 ファミリータンパク質を標的とする分子標的薬が開発された。ABT-263（navitclax）がその一つで、Bcl-2/Bcl-xL/Bcl-wを標的とした強力な抑制剤である。ABT-263は老化細胞を選択的に除去できる作用を有する。申請者らは、複数のヒト膵がん細胞株に対して GEMによるがん細胞”老化”の誘導と、その後にABT-263 を併用するという治療モデルを検証し以下の結果を得た。その結果、GEM はヒト膵がんPANC-1とAsPC-1細胞に細胞老化を誘導し、また、GEMで前処置した後にABT-263で処理すると著しい細胞死 senolysisが誘導された。この細胞死はBcl-2特異的阻害剤 ABT-199では抑制されなかったが、Bcl-xL特異的阻害剤 A-1331852で抑制されたことから、GEMで誘導した老化ヒト膵がん細胞の細胞死はBcl-xL の阻害によることが判明した。さらに、AsPC-1細胞をヌードマウスに異種移植したモデルにおいて、ABT-263 類似体である ABT-737 と GEMによる併用によりがんの増殖が抑制された。

研究成果

• [雑誌論文] Modulatory effects of supplementation of Lentinula edodes mycelia extract and L-arginine on the therapeutic efficacy of immunogenic chemotherapy in colon cancer-bearing mice. (2024)
  • 著者名/発表者名: Taniura T, Ishitobi K, Hidaka M, Harada M.
  • 雑誌名: Microbiology and Immunology 巻: 68 ページ: 15-22
  • DOI: 10.1111/1348-0421.13101.
  • 査読あり
• [雑誌論文] Overexpression of SerpinB9 in non-seminomatous testicular germ cell tumors. (2024)
  • 著者名/発表者名: Anami T, Ibe Y, Lianbo Li, Komohara Y, Hirao H, Harada M, Yano H, Fujiwara Y, Motoshima T, Yatsuda J, Hibi T, Kamba T.
  • 雑誌名: Medical Molecular Morphology, 巻: 57 ページ: 68-75
  • DOI: 10.1007/s00795-023-00374-9.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] The expression analysis of SerpinB9 in hepatoblastoma microenvironment. (2024)
  • 著者名/発表者名: Hirao H, Adawy A, Li L, Yoshii D, Yano H, Fujiwara Y, Honda M, Harada M, Yamamoto M, Komohara Y, Hibi T.
  • 雑誌名: Pediatr Surg Int 巻: 40 ページ: 55
  • DOI: 10.1007/s00383-024-05647-7.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Hypoxia-related carbonic anhydrase 9 induces serpinB9 in cancer cells and apoptosis in T cells via acidosis. (2024)
  • 著者名/発表者名: Harada M, Kotani H, Iida Y, Tanino R, Minami T, Komohara Y, Yoshikawa K, Uemura H.
  • 雑誌名: Cancer Science 巻: in press ページ: -
  • DOI: 10.1111/cas.16133
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Senolysis of gemcitabine-induced senescent human pancreatic cancer cells. (2024)
  • 著者名/発表者名: Hoque MM, Iida Y, Kotani H, Harada M.
  • 雑誌名: Cancer Reports 巻: 7 ページ: e2075
  • DOI: 10.1002/cnr2.2075.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] Anti-tumor effect of CCL19-expressing allogeneic mesenchymal stromal cells (2024)
  • 著者名/発表者名: Yuichi Iida, Mamoru Harada
  • 学会等名: 第52回日本免疫学会総会
• [学会発表] 免疫療法抵抗性に関与する低酸素応答関連分子 serpinB9 (2023)
  • 著者名/発表者名: 原田守
  • 学会等名: 第27 回がん免疫学会総会
• [学会発表] CCL19発現アロ間葉系細胞の抗腫瘍メカニズムの検討 (2023)
  • 著者名/発表者名: 飯田雄一、原田守
  • 学会等名: 第27 回がん免疫学会総会
• [学会発表] Pemetrexed-induced ferroptosis in A549 human lung cancer cells and a protective role of p21 (2023)
  • 著者名/発表者名: Harada Mamoru, Iida Yuchi, Hoque Mahbubul M, Kotani Hitosh
  • 学会等名: 第82回日本癌学会総会
• [学会発表] Senolysis of gemcitabine-induced senescent human pancreatic cancer cells (2023)
  • 著者名/発表者名: Hoque Mohammad Mahbubul, Yuichi Iida, Hitoshi Kotani, Mamoru Harada
  • 学会等名: 第82回日本癌学会総会
• [備考] 島根大学医学部免疫学講座 home page
  • URL: http://www.med.shimane-u.ac.jp/immunology