研究課題
悪性黒色腫および肺がん抗PD-1抗体投与患者の末梢血単核球を用いて、シングルセルRNAシークエンス解析を実施した。現在、肺がん検体でCITE-seq解析を行っている。治療前、抗PD-1抗体奏効患者CD8+T細胞に存在するTSCM(T memory stem cells)様遺伝子発現クラスターに発現する複数の遺伝子に着目して解析を開始した。そのうちTSCMのマーカーの一つとして知られるTCF7との発現相関が高いNELL2にとくに着目し、CD8+T細胞での機能解析を行っている。当該機能解析のために、独自にNELL2ノックアウトマウスをゲノム編集技術を用いて作出した。NELL2ノックアウトマウスCD8+T細胞の遺伝子発現解析をssGSEA解析を駆使して行った。さらに、NELL2ノックアウトマウスとOT-1マウス(OVA-TCR 発現)の交配も開始し、養子免疫療法を利用したマウス腫瘍治療モデルでのNELL2機能解析を実施するための準備に入っている。in vitroで実施可能な、ヒト健常人を用いた癌抗原特異的細胞障害モデルなどを利用したCD8+T細胞におけるNELL2の機能実験にも取り組んでいる。これらに加えて、NELL2受容体であるROBO3のT細胞における機能にも着目して解析を開始した。公開in silicoデータにより、癌抗原特異的ヒトT細胞におけるNELL2の発現も明らかとなっている。ヒト悪性黒色腫瘍組織におけるNELL2の蛋白発現解析にも着手した。NELL2の診断マーカーとしての活用も想定しているが、子宮頸がんで臨床研究を実施している腫瘍浸潤T細胞療法の細胞製剤機能向上にNELL2を利用することを想定し、子宮頸がんにおいて腫瘍浸潤T細胞の収集を行っている。また、NELL2とは異なる液性因子にも着目し、抗PD-1抗体治療患者末梢血での発現解析や機能解析を行っている。
3: やや遅れている
免疫チェックポイント阻害剤治療を受けた悪性黒色腫・肺がん患者末梢血単核球を用いて、バルクRNAシークエンス・シングルセルRNAシークエンスを実施した。さらに、CITE-seqも実施して種々のパイプラインを使用した解析を行い、データを蓄積している。NELL2ノックアウトマウスCD8+T細胞の遺伝子発現解析により、ノックアウトマウスにおいてTcf7,Slamf6, Lef1といったTSCM(T memory stem cells)マーカーの発現低下が認められた。これらのことから、NELL2が単なるマーカーとしての意義を超えて、機能的にTSCMの維持に貢献している可能性が生じた。興味深いことに、代謝調節関連遺伝子(グルコース、脂質)の発現変化も同時に認められたために、NELL2によるCD8+T細胞の代謝制御にも着目している。さらに、抗PD-1抗体奏効患者予測マーカーとして知られるCXCL13がNELL2ノックアウトマウスCD8+T細胞で発現低下していた。ヒト健常人を用いた癌抗原特異的細胞障害モデルにおいて、遺伝子工学的にNELL2を過剰・抑制発現させた場合のがん細胞殺傷能に与える効果を検証中である。in vitroにおける機能評価に加えて、担がんモデルマウスを用いた系における、NELL2の機能評価を計画した。B16-OVA担がんマウスに対して、NELL2を発現抑制したOT-1細胞を用いての養子免疫療法を行い、その腫瘍縮退効果を検証する準備が整った。CD8+TSCM様遺伝子発現クラスターに特異的に発現する新規液性因子に関しても、in vitroにおいてCD8+T細胞に与える効果を検証するとともに、抗PD-1抗体投与患者血液中における発現を測定している。主として研究する機関を移動し、マウスコロニーの移動に時間を要したために、想定よりも進捗に遅れが生じた。
1)in vitroにおけるNELL2の機能解析。ヒト健常人を用いた癌抗原特異的細胞障害モデルにおいて、T細胞にNELL2を遺伝子工学的手法で過剰もしくは抑制発現させて、その細胞障害能を評価する。同時に、代謝アナライザー等を用いて、NELL2の発現変化に伴う代謝機能の変化を評価する。この系を用いて、ROBO3-Fc添加を行い同様に評価する。OT-1/NELL2 ノックアウト(KO)マウスの脾臓・リンパ節よりCD8+T細胞を回収したのち、IFNg産生能や、B16-OVA細胞殺傷能を検証する。2)in vivoにおけるNELL2の機能解析。OT-1/NELL2 KO・OT-1マウスの脾臓・リンパ節よりT細胞を回収したのち、B16-OVA担がんモデルマウスに対してそれぞれ養子免疫療法を行うことにより、その腫瘍縮退能を比較検証する。同時に、がん組織中の移植T細胞の疲弊度および遺伝子発現変化を観察する。3)腫瘍浸潤T細胞を用いたNELL2の機能解析。子宮頸がん由来腫瘍浸潤T細胞(TIL)を単離したのちに、NELL2を遺伝子工学的手法で発現制御し、その疲弊度・増殖能・代謝能(ミトコンドリア機能を含む)・細胞障害能・フェノタイプ(メモリー等)変化などを評価し、NELL2をTILで制御する意義を検証する。4)NELL2の発現解析。NELL2の発現を免疫組織化学的手法で、抗PD-1抗体治療患者組織で検証する。5)TSCM様遺伝子発現クラスターに特異的に発現する新規液性因子。遺伝子工学的な手法を用いて、in vitro, in vivoにおいて当該因子の機能評価を試みる。さらに、患者血液中での発現をELISA等で評価する。
コロナ禍により、研究試薬や実験動物納入に遅延が生じたこと。研究本務先が移動し、トランスジェニックマウスの移設に想定以上の時間を有したため。
すべて 2021
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Cancer Science
巻: 112 ページ: 3163-3172
10.1111/cas.15009.
巻: 112 ページ: 1390-1401
10.1111/cas.14812