研究課題/領域番号 |
21K07206
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
國安 明彦 崇城大学, 薬学部, 教授 (90241348)
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研究分担者 |
中村 秀明 崇城大学, 薬学部, 准教授 (30435151)
牧瀬 正樹 崇城大学, 薬学部, 准教授 (80433001)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ネクローシス / ペプチド / がん治療 |
研究実績の概要 |
申請者らが合成したCXCR4指向性ペプチド化合物CTCE-KLAKは、ヒトおよびマウス乳がん細胞株に対して濃度依存的細胞死を誘導した。誘導された細胞死がカスパーゼ3の切断活性化を介さず、かつLDHの細胞外放出が見られたこと、形態学的観察からネクローシス様の細胞死状態を呈することがわかっている。そこで本年度は、細胞死の実態解明とin vivoにおける腫瘍縮小に伴うネクローシス誘導の発生について検証を行なった。 1. 細胞死の分子機序解析 細胞死の分子機序をより詳細に解析するために、蛍光標識CTCE-KLAKペプチドを合成して、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231への細胞内取り込みを蛍光顕微鏡観察した。その結果、リソソームへの移行が見られたのち、リソソームマーカーであるLysoTrackerの蛍光強度が減弱することを見出した。このことより、リソソームが破壊されていることが予想された。 2. 腫瘍増殖抑制におけるネクローシス誘導 マウス乳がんモデルを用いたCTCE-KLAKの腫瘍抑制作用におけるネクローシスの関与を、がん移植した周辺組織でのネクローシスの痕跡を免疫組織学観察によって調べた。マウス腫瘍部分の組織切片を作製し、炎症マーカータンパク質(HMGB1)の発現を免疫組織染色した。しかし、周囲の正常組織と明らかな発現増加は認められず、ネクローシスの痕跡は確認できなかった。 細胞系およびin vivo動物モデルでの検討の結果、細胞死にリソソーム膜の透過性亢進が寄与していることを示唆する知見が得られた。動物モデルにおけるネクローシス発生については、実験方法の見直しを含めて再検討が必要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ペプチド化合物による非アポトーシス性細胞死の誘導について、分子機序解析した結果、リソソーム膜の破壊が細胞死を引き起こしている可能性を見出した。しかし、その詳細について、関与する分子を特定するまでには至らなかった。次年度はリソソーム膜透過性に関連する分子に着目して解析を進め、ペプチドが結合する細胞死関連分子や細胞死の誘導現象について明らかにする。 また、マウス乳がんモデルにおいて、ペプチド化合物が腫瘍増殖を抑制することを確認したことから、がん細胞へのネクローシス誘導はがん治療の一つとして成立しうることを示した。このことを確定するには、腫瘍組織でのネクローシスの痕跡を同定することが必須であると考えらる。本年度は、マウスモデルの作製が滞ってしまったことと、免疫組織学的手法でネクローシスマーカーの検出を試みたが、確認することができなかった。実験手法の精査が必要と思われる。 よって、本研究課題は本年度で完成する予定であったが、以上のような技術的問題が生じたため遅延してしまった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、CTCE-KLAKペプチドのヒト乳がん細胞の細胞死誘導にあたり、ペプチド処理によってリソソーム膜の透過性亢進が起こっていることを示唆する結果を得た。今後は、ペプチドが誘導する細胞死の分子機序について、リソソーム膜の破壊機序、およびタンパク質分解酵素の放出に着目して調べ、本研究を完成させる。 動物実験では、CTCE-KLAKペプチドによる腫瘍縮小がネクローシスを伴うことの検証に力を注ぐ。本年度は組織切片を使ってネクローシスに特徴的な分子マーカーHMGB-1の放出を観察したが、明確に証明できる結果は得られなかった。次年度は、ペプチド投与後の血中内濃度を調べるなど、異なるアプローチで検証を試みる予定である。また、マウス腫瘍モデルについても滞りなく作製できる環境が整ったので、今後の課題遂行は問題ない。
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次年度使用額が生じた理由 |
ペプチド化合物によるヒト乳がん細胞への細胞死誘導の分子機序解析において、既存の細胞死モードとは異なっていたために、適切な分析方法を検討するのに時間を要したこと、および動物モデル作製実験に精通した人員が卒業してしまったため、トレーニング期間を要し、実験進行が遅延してしまった。 現在、実験遂行の障害はクリアしており、次年度においては滞りなく実験を進められる状況にある。
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