研究実績の概要 |
がん遺伝子の活性化などによる発がんシグナルはDNA複製の遅延・停止(複製ストレス)を誘導する。発がん性複製ストレスは細胞老化・細胞死を誘導し発がん抑制に関与するが、これを解消する応答機構ががんの発生、悪性化に重要な働きを果たす。この応答機構を解明し、がん細胞特異的に複製ストレス増強による細胞死を誘導する新たな種類のがん治療法の開発が期待されている。 グアニンに富む1本鎖DNAはグアニン四重鎖(G-quadruplex, G4)構造と呼ばれる立体構造を形成する。G4構造は複製フォーク進行を阻害し複製ストレスの原因となる可能性が示唆されており、本研究では発がん性複製ストレスにおけるG4構造の役割を解明することを目的として研究を展開した。 昨年度までに、がん遺伝子c-Myc(Myc)が誘導する複製ストレスに加えて、Mycによる転写ストレスにもG4が関与する可能性を示す結果が得られ、Mycが引き起こす種々の反応にG4構造が関係する事が示唆された。また、Mycによる発がん性複製ストレス軽減に働くと我々が過去に報告したPolymerase η (Polη) のG4構造に対する影響を解析し、MycによるG4増加に対する応答にPolηが関与することを示唆する結果を得ている。本年度は、これらの結果を論文化するために実験的再現性や生物的普遍性などデータ収集を進め、論文執筆作業の準備に取りかかっている。 加えて、RNA Polymerase (Pol II)の進行を制御する転写関連CDK (CDK7, CDK9)阻害剤処理がMyc活性化細胞においてDNA二重鎖切断を誘導する事を見いだした。この結果は、CDK7/9阻害剤がMyc誘導性転写ストレス増強を介して抗腫瘍効果を示す可能性を示唆しており、現在、詳細な分子機構を解析中である。
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