研究課題/領域番号 |
21K07216
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
堀 一也 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (50749059)
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研究分担者 |
青木 耕史 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (40402862)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 癌幹細胞性 / 転写調節CDK阻害薬 / BET阻害薬 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、大腸癌細胞の癌幹細胞性を抑制する薬物療法の開発を最終の目的とする。これまでの予備実験から、複数の転写調節サイクリン依存性キナーゼ(t-CDK)とBETファミリータンパク質(BET)を同時に阻害することで、大腸癌細胞の癌幹細胞性を抑制できることが分かっていた。そこでまずは、抗癌薬の標的として阻害すべきt-CDKまたはBETを特定することを目的とした。この目的のために、それぞれの因子に特異的な阻害薬を9種類と、従来の化学療法薬5-FUを用いた。最初に、大腸癌細胞株HT29を上記の薬で6日間処理した後、培養液からそれぞれの薬を除去してさらに10日間培養した。このとき、それぞれの薬の濃度は、大腸癌細胞が増殖できる程度の濃度を用いた。次に、癌幹細胞性を定量的に解析するため、それぞれの薬で処理したHT29細胞を免疫不全マウスの皮下に異種移植し、造腫瘍性を調べた。その結果、CDK9阻害薬またはCDK12/13阻害薬で処理したHT29細胞の造腫瘍性が顕著に低下していることが分かった。さらに、それぞれの腫瘍を組織学的に解析した結果、コントロールのHT29細胞由来の腫瘍に比べて、より分化度の高い腺癌の特徴を示していることが分かった。一方で、化学療法薬である5-FUで処理したHT29細胞では、造腫瘍性は低下しないことや、細胞の分化が促されないことが分かった。当該年度の研究により、化学療法薬5-FUとは異なり、特定のt-CDKを阻害すると大腸癌の癌幹細胞性を抑制できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の実験では、9種類のt-CDK阻害薬とBET阻害薬でHT29細胞を処理した後に、阻害薬非存在下にて一定期間培養してから、免疫不全マウスの皮下に異種移植した。その結果、CDK9阻害薬またはCDK12/13阻害薬により処理したHT29細胞では、造腫瘍性が低下することが分かった。また、組織学的な解析から、形成された腫瘍では分化度の高い細胞が出現していることなどが分かった。すなわち、大腸癌の癌幹細胞性を抑制するためには、CDK9またはCDK12/13を阻害することが効果的であることが分かった。一方で、化学療法薬である5-FUにより処理したHT29細胞では、大腸癌の癌幹細胞性が抑制されないことが分かった。以上の実験から、当該年度の研究目的は順調に達成できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、HT29細胞を用いて、癌幹細胞性を抑制するための最適なt-CDK阻害薬の組み合わせ、または、これらのt-CDK阻害薬と従来の化学療法薬の組み合わせを見出す。そのために、それぞれの阻害薬を併用するための濃度を決定する。それぞれの阻害薬を単剤で用いた場合の濃度の半分程度を基本として、阻害薬を併用しても大腸癌細胞の増殖を完全には抑制しない濃度を調べる。次に、複数の薬(上記の方法で決定した濃度)で同時に処理した大腸癌細胞を、阻害薬非存在下で一定期間培養してから、免疫不全マウスの皮下に異種移植し、腫瘍の成長を経時的に調べる。加えて、次年度は、化学療法薬の中から、5-FUに加えてOxaliplatinとIrinotecanについても同様の解析を行い、癌幹細胞性に与える影響を解析する。また、これまでは、造腫瘍性の強いHT29細胞を用いて実験系の確立と結果の解析を行ってきた。そこで、今後は、複数の大腸癌細胞株(DLD1、LS174Tなど)を用いて同様の実験を行うことで、HT29細胞で得られた解析結果の一般性を調べる。上記の一連の解析により、大腸癌の癌幹細胞性をより強力に抑制するt-CDK阻害薬、または、t-CDK阻害薬の最適な組み合わせを見出すとともに、それらのt-CDK阻害薬と従来の化学療法薬の併用の可能性を検討する。さらに、大腸癌の癌幹細胞性をより強力に抑制するt-CDK阻害薬による、細胞への作用機序の解析を進める。まずは、t-CDK阻害薬で処理した大腸癌細胞と、DMSOで処理したコントロールの大腸癌細胞からRNAを抽出して、DNAマイクロアレイ法による遺伝子発現解析を行う予定である。
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