本研究課題では、大腸がん細胞のがん幹細胞性を抑制する薬物療法の開発を目指している。これまでの解析から、転写調節サイクリン依存性キナーゼの一つであるCDK9またはCDK12/13に対する阻害薬で処理した大腸がん細胞株HT29では、大腸がんのがん幹細胞性が顕著に抑制されることが分かった。しかし、化学療法薬である5-Fluororacilにより処理したHT29細胞では、大腸がんのがん幹細胞性は抑制されないことが分かった。すなわち、細胞の増殖を抑制するだけではなくがん幹細胞性を抑制できないことが分かった。一方で、トポイソメラーゼ阻害薬のIrinotecanは、大腸がん細胞のがん幹細胞性を抑制することが分かった。それぞれの腫瘍を組織学的に解析した結果、細胞分化の特徴を示す腺菅構造が多く観察された。さらに、今年度の解析から、Oxaliplatinによっても大腸がん細胞のがん幹細胞性を抑制することが分かった。したがって、抗がん薬の中には、がん幹細胞性を抑制するものと、抑制しないものがあることが分かった。また、CDK12/13阻害薬による大腸がんのがん幹細胞性の抑制について解析したところ、CCNKの抑制により、大腸がんのがん細胞性のマーカーとなる遺伝子の発現が抑制され、細胞の増殖などが抑制されることが分かった。すなわち、CDK12/13阻害薬とこれまでの抗がん薬の併用が、大腸癌の治療薬方法となる可能性がある。
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