研究課題
本研究では、解糖系と非解糖系のヒト膵臓癌細胞を用いてOBP-702に対する感受性を阻害する代謝関連因子を解析し、代謝調節剤を併用することでOBP-702抵抗性を改善する最適なOBP-702個別化治療の開発を行う。令和3年度は、解糖系のヒト膵臓癌細胞株2種類(MIAPaCa-2、PK-45H)と非解糖系のヒト膵臓癌細胞株2種類(PK-59、Capan-2)における代謝関連因子の発現をウェスタンブロット法で解析し、解糖系は非解糖系に比べて乳酸脱水素酵素-A(LDHA)の発現が高いことを確認した。さらに、解糖系はウイルス感受性が高く、非解糖系はウイルス感受性が低いことを確認した。ヒト膵臓癌細胞におけるウイルス感受性の違いのメカニズムを解析したところ、ウイルスの感染効率よりもウイルスの複製効率に大きな違いがあることを確認した。令和4年度は、解糖系と非解糖系のヒト膵臓癌細胞を用いてウイルス感染後のE1A、p53、アポトーシス、オートファジーの誘導変化をPCR法とウェスタンブロット法で解析した。OBP-702によるE1A、p53、アポトーシス、オートファジーの誘導効果は解糖系より非解糖系で著明に低下していることを確認した。次に、解糖系代謝を阻害するSCH772984と2DGで処理したところ、解糖系のウイルス感受性が低下した。一方、解糖系代謝を誘導する低酸素暴露、低グルコース培養、ミトコンドリア阻害剤(CPI-613)で処理したところ、非解糖系のウイルス感受性が改善した。以上より、ヒト膵臓癌細胞におけるウイルス感受性に解糖系代謝が重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度は、解糖系2種類と非解糖系2種類のヒト膵臓癌細胞株を用いて解糖系はウイルス感受性が高く、非解糖系はウイルス感受性が低いことを確認した。このウイルス感受性の違いがウイルスの複製効率による可能性を突き止めた。令和4年度は、解糖系代謝を誘導あるいは阻害する薬剤を用いて解糖系代謝がウイルス感受性に重要である可能性が示唆されることから、おおむね順調に進展していると評価できる。
令和5年度は、解糖系と非解糖系のヒト膵臓癌細胞株を皮下移植した動物モデルを用いてin vivoにおけるウイルス感受性の違いを確認し、腫瘍組織の代謝環境をPET-CTや免疫組織染色法で解析する。さらに、ウイルス抵抗性を示す非解糖系腫瘍の動物モデルを用いて、ウイルスと代謝調節剤(CPI-613)を併用した場合の治療効果を確認する。
ウイルス治療後の細胞内のタンパク質の発現変化をウェスタンブロット法で確認するために関連する抗体の購入を予定していたが、次年度に腫瘍組織内の代謝関連タンパク質の発現を免疫組織染色法で解析するための抗体の購入に繰り越した研究費を使用する予定である。
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