研究課題
WEE1キナーゼは、細胞周期のG2/Mチェックポイントの抑制分子であり、WEE1阻害薬はがん細胞をM期に移行させてmitotic catastropheによる細胞死を誘導する。ヒト乳がん細胞MCF-7より樹立した3株のWEE1阻害薬耐性細胞は、親株のMCF-7細胞に比してWEE1阻害薬のadavosertibに4〜5倍の耐性を示した。また、3種のCHK1阻害薬およびrabusertib、2種のPLK1阻害薬に2~4倍の交差耐性を示した。CHK1、PLK1は、WEE1の機能を制御する分子であり、阻害薬感受性においても相互の関係が示唆された。cDNA microarray解析より、WEE1阻害薬耐性細胞でPI3K-AKT経路の活性化が示唆された。また、AKT阻害薬capivasertibの併用により、WEE1阻害薬耐性細胞のadavosertib耐性が減弱した。以上より、AKTがMCF-7細胞のadavosertib耐性に関与していると考えられた。我々はこれまでに、当研究室で樹立したPLK阻害薬耐性細胞およびAURK阻害薬耐性細胞におけるAKT3の活性化を報告しており、AKTはこうした細胞周期関連分子標的薬の効果に重要であると考えられた。免疫沈降とwestern blottingにより、AKAP95が、抗がん剤排出トランスポーターであるP-glycoprotein(P-gp)と結合することを明らかにした。また、AKAP95のsiRNA、shRNAを導入すると、細胞膜上のP-gpの発現が低下した。以上より、AKAP95は、抗がん剤耐性の制御因子の一つであると考えられた。ヒト大腸がんHCT116細胞にSLUG遺伝子を導入して上皮間葉転換(EMT)を誘導した116/slug細胞は、幹細胞性を有するSP(+)細胞を高率に含み、種々の抗がん剤に耐性を示す。これまでに、2種のBET阻害薬が116/slug細胞のSP(+)細胞の割合を低下させることを見出している。本年度はさらにepigenetic阻害薬を用いたスクリーニングを行い、3種のHDAC阻害薬がSP(+)細胞の割合を低下させることを見出した。阻害薬のHDAC特異性の解析から、この作用はHDAC6の阻害に関係していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、複数の分子標的治療薬の効果を左右する薬剤耐性・感受性規定因子を同定し、その分子機構を明らかにして、新しい治療戦略の開発を目指すことである。本研究では、この目的のために2つのテーマを設定した。ひとつは、増殖シグナルを標的とする分子標的治療薬の耐性細胞を用いて、耐性機構の解析を行い、薬剤耐性・感受性規定因子のネットワーク・相互関係を明らかにすることである。本年度のWEE1阻害薬を用いた研究、AKTに関する研究は、この研究計画に沿ったものである。本年度はこれに加えて、分子標的薬を含めた薬剤の耐性に重要なP-gpの発現制御に関して新しい知見を得た。もうひとつは、がん細胞の細胞転換に伴う薬剤耐性の機構の解析である。本年度は、116/slug細胞のSP(+)細胞の維持にHDAC6が関与していることを示唆する知見を得た。これも、研究計画に沿ったものである。以上より、本研究は概ね順調に進行していると判断した。
増殖シグナルを標的とする分子標的治療薬の耐性細胞を用いた研究では、これまでに、WEE1阻害薬耐性細胞がCHK1阻害薬およびPLK1阻害薬に交差耐性を示す知見を得た。今後は、CHK1阻害薬耐性細胞およびPLK1阻害薬耐性細胞を用いて、遺伝子発現の網羅的解析、遺伝子ノックダウン、遺伝子導入などの実験を行なって、薬剤耐性・感受性規定因子のネットワーク・相互関係を明らかにしていく。また、P-gp結合タンパク質に関する研究を進める。がん細胞の細胞転換に伴う薬剤耐性に関する研究では、116/slug細胞のSP(+)細胞の維持に関わる制御分子の研究を進める。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
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https://www.pha.keio.ac.jp/research/ct/chair.html