研究課題/領域番号 |
21K07236
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
梶田 美穂子 立命館大学, 生命科学部, 助教 (00607442)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 乳がん / オルガノイド / 組織常在性マクロファージ |
研究実績の概要 |
多数の変異が蓄積した悪性腫瘍における免疫抑制機構については多くの知見が集積している一方、発がんの初期段階でがん免疫がどのように始動するのか、そのタイミングやメカニズム、さらにがん免疫の始動に関わる免疫細胞等はほとんどわかっていない。研究代表者は、がん免疫を始動する細胞として組織常在性マクロファージに着目し、その役割を解析するため、乳腺オルガノイドを用いた新しいモデルシステムを構築した。その結果、組織常在性マクロファージが発がんの初期段階に生じるような特定の変異細胞を感知・貪食することを明らかにした。このモデルシステムでは、CX3CR1-GFPマウス由来の乳腺オルガノイドに、レンチウイルスベクターによってtdTomato-P2A-oncogene配列を導入する。それにより、組織常在性マクロファージをGFP+、変異細胞をtdTomato+として可視化することができ、そのinteractionを経時的に解析することを可能にした。これまでHRasV12, Twist, p53DD(ドミナントネガティブ変異体)についてウイルスベクターを作製し、解析を進めた結果、HRasV12変異細胞に対しては組織常在性マクロファージが感知し、貪食することが明らかになった。一方、Twist, p53DDなどの変異細胞については、顕著な反応はみられなかった。 当該年度は、HRasV12変異細胞に対する組織常在性マクロファージの特異的な反応について、その分子機構を明らかにするためにまずはEat meシグナルであるホスファチジルセリンの細胞外への露出を検討するため、実験系を確立した。また、マクロファージによる標的細胞の貪食機構を詳しく解析するため、リン脂質2重層でコートされたシリカビーズを用いたアッセイ系も推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、実験に必要なCX3CR1-GFPマウスを東京医科歯科大学から立命館大学のマウス施設への搬入を完了し、直ちにmating を開始して、実験に必要なCX3CR1-GFPgfp/+マウスを得た。このメスマウスより乳腺オルガノイドを作製し、新たに作製したレンチウイルスを感染させて、オルガノイドを用いた実験を開始している。まずはEat me シグナルとして代表的なホスファチジルセリン(PS)の細胞膜外側への露出が、HRasV12変異細胞で上昇しているか確認するため、乳腺オルガノイドにAnnexinV-Alexa647を作用させて解析している。ゲルに包埋された状態のオルガノイドの染色は、細胞培養を染色する場合と条件が異なるため、まずは条件を検討し、PSの細胞膜外側への露出を観察するための最適な条件を確立した。 また、リン脂質2重層でコートされたシリカビーズのアッセイ系を用いて、マクロファージによる貪食ターゲット認識機構や、貪食機構に関わる因子の解析も同時に進めた。 上記のように研究は前進しているため、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
さらに多様ながん遺伝子についてレンチウイルスベクターを作製し、乳がん細胞で高頻度に観察される変異(PIK3CA H1047R, p53 R273H)や、乳がん細胞ではあまり変異が報告されていない変異(HRas G12V, KRasG12D)、またEMT (epithelial-mesenchymal transition) を誘導する遺伝子(Twist)等で組織常在性マクロファージの反応が異なるか、タイムラプス等によって調べていく。また、貪食細胞に対するEat meシグナルとして代表的なPSの細胞外への露出が、乳腺オルガノイド上のHRas G12V変異細胞で上昇しているか、他の変異細胞と比較しながら、AnnexinV-Alexa647の蛍光輝度を定量的に解析していく。さらにマクロファージとがん細胞とのinteractionについて既報の因子であるICAM-I、calreticulin 等を免疫染色で調べることにより、組織常在性マクロファージによる発がん初期段階での変異細胞の認識の分子機構を明らかにしていきたい。それに加えて、リン脂質2重層でコートされたシリカビーズのアッセイ系を用いて、マクロファージによる貪食ターゲット認識機構や、貪食機構の解析も推進していく。
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